第7章 親と子のボーダーライン(その29)
「じゃあ、そのパチンコ屋を出たのは午後の8時過ぎぐらいか?」
武田は確認してくる。
「まぁ、そんな頃だったろうな。いちいち、覚えちゃいねぇけど・・・。」
パチンコを打っていた時間を考えると、そんなものだろうと哲司も思う。
3千円が、あっという間に消えてしまった。
「で、それからどうした? まさか、パチンコで負けた分を誰かから巻き上げたんじゃないだろうな?」
武田は、上目遣いに訊いてくる。
「そ、そんなことはしてねぇよ。
確かに、負けて腹が立っちゃあいたけど、そんな元気もなかった。
チャリンコ漕いで、まっすぐ家に帰った。」
「それで?」
「屁をこいで寝た。」
「・・・・・・。」
哲司の言葉をそのまま信用したわけではないのだろうが、武田は小さく何度か頷くだけだった。
「ところで、うちの学校の3年に、山川美貴って子がいるのは知ってるだろう?」
武田は突然に話の方向を変える。
「ああ、顔と名前だけは・・・。生徒会の副会長さんでもあるしな。」
哲司は、それだけを答える。
どうして、その子の名前が武田の口から出たのかが分からないから、すこし警戒する部分もある。
「美人さんだよな?」
「そ、そうかなぁ? でも、どうしてそんなことを訊く?」
「そうは思わんか?」
「う〜ん、俺の趣味じゃあねぇ。」
「そっか・・・、巽の趣味じゃないってか・・・。」
「ど、どういう意味だ?」
「い、いや、別に深い意味は無い。じゃあ、もう帰って良い。」
「おお・・・、俺への疑いは晴れたんだな?」
「現時点ではな。
それはそうと、さっき言ってたA君とB君なんだが、今日は学校へ来てたか?」
「Aは見たな。でも、Bのことは知らねぇ。クラスも違うしな。」
「じゃあ、そのA君だけで良いんだが、いつもと変わりなかったか?」
「ああ・・・、昨日と同じように眠たそうな顔をしてたぜ。」
「そっか・・・。」
「な、何だよ?」
「いや、良いんだ。」
武田は、手でドアの方を指し示した。
帰って良いと言っているようだ。
(つづく)