第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その1)
哲司が奈菜と知り合ったのは、アパートの近くのコンビニである。
定番のカップ麺を買おうと出かけた。
今月一杯をこの金で凌げれば・・・と思う5千円札1枚を握ってだ。
1日2食だから14コあれば1週間暮らせる。
冷蔵庫には、半年前に買った缶詰もまだ2個あった。
籠を下げて、14個のカップ麺を買う。
同じ種類では飽きが来るから、できるだけの種類を選ぶ。
ただ、「こってり」というものは口に合わないから除外する。
そうして選んだカップ麺をレジへと持っていく。
その時、レジをしていたのが奈菜であった。
「これ、美味しいですよね。私もよく食べるから。」
店が暇だったこともあって、奈菜がそう言って笑った。
それが初めての出会いである。
「そう言えば、この子、新顔だなあ。」
哲司は単純にそう思った。
「1470円です。」
奈菜はバーコード読み取り機で計算された結果を口にする。
「じゃあ、これで。」
哲司は最後の紙幣である5千円札を出した。
「はい、1万円お預りします。」
奈菜はそう言って、その5千円札をレジ台の上に置く。
哲司はぼんやりと聞いていたから、彼女が勘違いをしているのに気がつかなかった。
「はい、お釣り、8530円です。お確かめください。」
奈菜はそう言って現金を哲司に手渡す。
哲司はその現金とレシートを無造作にポケットに突っ込んで、レジ袋に入れられたカップ麺を下げて店を出た。
釣銭が多いことも意識に無かったから、普段どおりに商店街をゆっくりと歩いてアパートに戻った。
キッチンの上に備え付けられている棚に、今買ってきたばかりのカップ麺を種類ごとにまとめて並べる。
「さて、今日はどれにするかな?」と選ぶのが好きである。
それから、ポケットに突っ込んであった釣銭を取り出す。
札だけを財布に入れるつもりで、小銭とは区分する。
「ん?・・・・・・」
そこで初めて、釣銭が多い事に気がついた。
「ラッキー。カップ麺買ったら、金が増えたぞ。」
哲司はそうは思ったものの、そこで少し思案をする。
「待てよ。あの子、気がついてないんだろうか?
でも、ある時間になったら検算をする筈だ。
そうしたら、・・・・・あの子、慌てるんだろうな。」
哲司の脳裏に、奈菜の笑顔が浮かんでは消えた。
(つづく)