第7章 親と子のボーダーライン(その24)
「なぁ、巽。今回の件は、耳にしてるんだろ?」
武田は顎の下に蓄えた髭を指先で弄りながら言ってくる。
「・・・・・・。」
哲司は、黙って頷いた。
「俺は、お前が関係してるとは思っちゃいない。相手のグループに女の子がいたからな。」
「ん?」
「か弱い女子に手を挙げるようなお前じゃないことは確かだしな。」
「そ、それが分かってるんだったら、こんなところに呼び出すなよ。」
「ま、まあまあ、そう言うな。」
「何かあると、すぐに俺じゃねえかと疑う。学校も単純だぜ。」
哲司は、今回だけは強気に物が言える。
何しろ、完全な「シロ」だからだ。
「昨日のその件で、我が校の何人かが関係したと言われてるんだが、そのグループに心当たりは無いか? 何年生のグループかだけでも良い。」
「そ、そんなこと、俺が知るか!」
「蛇の道は蛇って言葉もある。」
「な、何だ? その蛇ってのは?」
「昔からの諺だ。同じ穴の狢ってのもある。」
「・・・・・・。」
哲司は正直むかっ!と来た。
これが他の教師だったら、今頃は、足で机を蹴っ飛ばしていただろう。
だが、武田だから、何も言えない。
「マ、マジで、知らねぇよ・・・。本当に、うちの学校だったのかも疑わしいんじゃねぇのか?
何しろ、相手がお京なんだろ?」
「な、何だあ? そのお経ってのは?」
「ナンマイダのお経じゃねえよ。香取京子って奴だろ? 暴行されたって言ってるのは・・・。」
「お、お前、よ〜く知ってるなぁ〜。」
「俺らの世界じゃ、超有名なじゃじゃ馬だ。お京って子は・・・。
何でも、オヤジが政治家なんだろ? 民政党かなんかの・・・。」
「ほう、そんなに有名なのか? その子。」
「ああ・・・。それこそ、虎の何とかだ・・・。」
「虎? それも言うなら、“虎の威を借る狐”だろ?」
「そ、そんなことはどうでも良いけど・・・。その子の言ってることを信じてるようじゃ、何日掛けたって、その犯人は見つからないかも・・・。
何しろ、嘘つきで有名だしな。」
「嘘つき?」
「ああ・・・、俺もなかなか本当のことは言わないけれど、あの子は本当のことはひとつも言わないって噂だし・・・。」
哲司は、香取京子を知っていた。
(つづく)