第7章 親と子のボーダーライン(その23)
哲司が中学2年のときだった。
近隣の私立中学とのトラブルが学校で問題となった。
どうやら、夜の繁華街で、肩がぶつかったのぶつからなかったので、小さな喧嘩があったようだった。
数人ずつのグループ同士での喧嘩だったらしい。
近くにいた大人が警察に通報した。
で、その私学のグループだけが警察に補導をされた。
公立側は、警官の姿を見て、瞬く間にその場を逃げ去ったらしい。
その程度で終っておれば良かったのだが、その補導された私立中学のメンバーの一人が、市議会議員の娘だったから、ことがややこしくなった。
「公立中学のグループに喧嘩を吹っかけられて、無抵抗だったのに、ボコボコにされた」と訴えたらしい。
おまけに、その議員の娘が「性的暴力を受けた」と言ったものだから、引っ込みが付かなくなったようだった。
で、警察に被害届が出されたのだ。
警察からの通報を受けた学校側は大いに慌てたらしい。
で、犯人探しが始まった。
もちろん、哲司も、真っ先に疑われた。
「お前な、昨日の夜は、どうしてた?」
生活指導部の部屋に呼び出された哲司は、担当教師からそう詰問された。
「どうして、そんなことを答えなきゃいけないんだ?」
哲司は、そう切り返した。
既に、前日の喧嘩の噂は耳にしていたからだ。
そのうちに、自分も呼び出されるだろうと覚悟はしていた。
「そんなこと、どうでも良いんだ。質問に答えろ。」
担当教師が脅すような態度で言う。
元自衛隊の猛者で、体育教師をやっている奴だから、その迫力は相当なものだった。
「う〜ん、一晩寝たら、綺麗に忘れた。」
哲司は、そう答えた。
もちろん、そんな筈も無いのだが。
「ばかもん! そんな冗談が通ると思ってるのか!」
担当教師が目の前を机を平手で叩いた。
物凄い、乾いた音がした。
これでビビらない奴はいないとの噂どおりの迫り方だが、哲司はビクともしなかった。
何しろ、昨夜の件に関しては全く無関係だったからだ。
どこをどう探られても、痛いことはなかった。
だから、平気の平左だった。
そこに、以前から哲司をずっと指導してきた武田という教師が入ってきた。
そして、その猛者教師の耳元でなにやらヒソヒソと囁くようにする。
「ああ、そ、そうでしたか・・・。では、・・・。」
そう言った猛者教師が席を立った。
代わりに、武田がその椅子に腰を降ろしてくる。
哲司は、この武田が苦手だった。
(つづく)