第7章 親と子のボーダーライン(その22)
「ど、どうして、そんな話を今?」
哲司は、思ったとおりを口にする。
「いゃ・・・、別に特別な意味は無い。
ただ、こうした話をしておく機会が今までなかったから・・・。
それだけのことだ。」
父親は、今言った言葉に他意はないと言いたげだ。
「そ、そんなこと、言われなくっても分かってるよ。」
哲司は、父親の顔から視線を外すようにしてそう答える。
それが今言える精一杯の会話だ。
確かに、今回の帰省には、奈菜との関係を少し整理したいという思いもあった。
そのためには、少し距離を取って・・・。
そうした思いがあったのも事実ではある。
だが、だからと言って、両親にそのことを相談したり、報告したりするつもりは全くなかった。
ただ、あのアパートにいれば、望む望まないに関わりなく、毎日のように奈菜の存在を意識する。
僅か数分の場所で奈菜がバイトをしているのだ。
そのコンビニに行きさえすれば、奈菜の顔が見られるし言葉も交わせる。
そうした環境にいると、ついつい自分のその時の感情の赴くままに行動をしてしまいそうになる。
だから、距離と時間を空けるつもりで、帰省を思いついた。
「そ、そうよねぇ・・・。哲ちゃんも、もう立派な大人なんだし・・・。」
母親は、哲司が「今は恋人なんていない」と言ったことでほっとしたのか、それまでの表情から少し柔らかくなった目で言う。
やはり、父親とは少し捉え方が違うようだ。
哲司も、小学校高学年ぐらいからは、いわゆる問題児に傾斜して行った。
それは、「こうだから」と明確に説明や主張が出来る理由がある訳ではなかった。
いろいろな確執が日々少しずつ積み重なって、次第に自分の中だけでは消化し切れなくなった。
そして、そのはみ出た思いが、いわゆる問題行動として表れた。
学者の言葉を真似すれば、そういうことなのだろうと自覚もしていた。
ただ、哲司の気持の中には、こと「異性との関わり」での道を外したという意識は全くなかった。
悪戯にしても、女の子のスカート捲りをしたのが関の山で、次第にエスカレートしていく問題行動においても、この部分についての悪事には手をつけなかった。
中学生になってからは、喧嘩などの暴力沙汰は日常的だった。
毎日のようにどこかで誰かと事件を起こしていた。
それが公になるかならないかだけで、哲司としては、それを隠そうなどとも思ってはいなかった。
それでもだ。異性、つまりは女の子には、例えどんなことがあっても暴力を振るう事はなかった。
「俺は、硬派だから」。
それが口癖だった。
(つづく)