第1章 携帯で見つけたバイト(その41)
「山田!・・・言っていいことと悪いことがあるぞ。」
香川は呆れた顔をする。
「でも、そうなるでしょう?
手の早いものがたくさんの仕事をこなして、手の遅いものは楽をする。
それでいて、給料は一緒。
それって、理屈に合わないでしょう。
だから、勤めるのが馬鹿らしくなるんだ。」
山田は相変わらずの持論をまくし立てる。
「そ、そんな御託ばっかり並べやがって・・・。
そんなんだから、まともな会社は相手にしないんだ。」
香川は細かな反論をせずに、それは山田独自の考え方で、世間では通用しないことを言いたかったようだ。
「じゃあ、オタクの会社もまともじゃないんだ。
俺みたいなのを、例えバイトであっても雇ったんだから。」
山田は、捨て台詞のような言葉をたたきつけた。
これで、これから言われるであろう作業を自分はしないよとでも言いたかったようだ。
「勝手にほざいてろ!」
香川は匙を投げたようだった。
もう、どう言ってもこいつは駄目だと考えたようだ。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。」
哲司はそう簡単には割り切れない。
声には出せないが、香川と山田の2人に向ってそう言いたくなった。
「そんな身勝手な。お前らはそれでいいかも知れんが、だったら、その掃除機は誰がかけるんだ?
結局のところは、俺になるの?
そりゃあ、無いぜ。
どうして、俺がそこまでしなきゃならないんだ?」
2人の会話を黙って聞いていたものの、その成り行きではまずい事になるとの心配がまともに当たってしまった。
どうして、香川はあの程度で引き下がるんだ?
かなり頭に来ている筈なのに、あの山田の言い分に簡単に屈したように思えるのだ。
確かに、山田の言っている事にも一理ある。
何度もそうしたことに出会ったことのある哲司も、同じように思ったことがあった。
だからこそなのである。
要領よく、楽に仕事を片付けるには、どうするのが一番得策なのかを身を持って感じてきたバイト生活である。
それなのに。。。。
「最後の詰めを誤るな」
あの及川がこの香川に言った言葉がふと頭をよぎった。
(つづく)