第7章 親と子のボーダーライン(その3)
(や、やっぱり・・・? じゃあ、小学校は?)
哲司は単純な疑問を覚える。
小学校の文字が消えている。
つ、つまりは、川上小学校はすでにそこには存在しないってことなのだろう。
じゃあ、小学校はどこに行った?
確かに、川上小学校は、哲司が生まれる前からそこにあった。
それだけ古い学校であり、校舎だった。
はじめはもう少し規模の小さい小学校だったらしいが、高度成長時代に近くに住宅団地が出来て、一気に生徒数が増えたのだそうだ。
それで増築までをして最盛期1000人を超える生徒数を誇ったマンモス校だった。
いまでも、その校舎は最盛期のままである。
取り壊しもされてはいないし、シンボルだった時計台も健在だ。
そ、それなのに、学校の名前がなくなっている。
どこかに移転したのだろうか?
それとも・・・。
哲司は、その後の言葉を無理矢理打ち消した。
そんなことをぼんやりと考えていると、車窓に見慣れた懐かしい風景が飛び込んできた。
(あっ! 家だ・・・。)
と思ったが、時既に遅し。
降りることを申告する降車ボタンを押すのを忘れていた。
降りるべきバス停を、バスは無言で通過した。
「す、すみません、降ります!」
そう大声を出せば止めてくれたかも知れない。
それでも、哲司はそれが出来なかった。
かっこ悪い!
そういう感覚が真っ先に頭に浮かんだ。
結局、哲司は次のバス停まで乗り越してから、バスを降りた。
もちろん、歩いて1停留所を戻るつもりだ。
10分ちょっとで歩ける距離だと思うからだ。
やや坂道となった道路をだらだらと下るように歩く。
そう言えば、子供の頃は、よくこの道を走ったものだった。
夕飯ギリギリまで友達と遊びまわって、午後の5時半になったら、走って家へと帰る。
それが日課だった。
父親が午後の6時前後に戻ってくる。
それより後で帰ると、こっぴどく叱られるのだ。
だから、何としてでも6時までには家に帰っていなければならなかった。
転がるようにして、この坂を下ったのを思い出す。
(つづく)