第7章 親と子のボーダーライン(その1)
やがて、乗るべきバスがやって来た。
同じコースをピストン運転するバスだから、ここで降りる客もいる。
つまり、ここは始発駅であり、終着駅でもあるのだ。
10人近い人がここで降りる。
そして、その倍ほどの人数が同じバスに乗り込んだ。
もちろん、哲司もそのひとりとしてステップを上がった。
哲司は、最初から座るつもりがないから、できるだけ前の方に、つまりは降車口に近いとこまで行ってつり革を握る。
若いのだし・・・とカッコつけている訳ではない。
高齢者が多くなった最近のバスの車内。哲司のようなラフな格好をして席に座っていると、白い目で見られるのだ。
確かに、それは哲司の思い過ごし、僻み根性から出た感覚なのかもしれない。
それでも、同じ運賃を支払って乗っているのに、そんな冷たい目で見られるのは嫌だった。
乗客が乗り込んだのに、バスはそれでも発車をしない。
後部の乗車口の扉を開けたままで、運転手はじっと動かない。
どうやら、時間調整をしているようだ。
少なくとも、このバス停は私鉄ターミナルに隣接している。
したがって、その発車時刻も、私鉄の急行列車の到着時間に合わせて組まれているらしい。
やがてそのターミナルビルから、どっと人の波が出てきた。
どうやら、地元高校に通う生徒達の集団が中心のようだ。
皆、同じような制服を着ている。
その集団の中から、このバスを見て駆け出す何人かがいた。
そして、そのグループがバスに乗り込んだかと思うと、運転手は後部のドアを閉めて、エンジンを掛けた。
どうやら、出発をするようだ。
「毎度、ご乗車有難うございます。」
バスが動き始めたのとほぼ同時ぐらいに、車内アナウンスが流れ始める。
もちろん、乗ってはいない女性の声である。
ご多分に漏れず、この路線もワンマンカーなのだ。
アナウンスは、路線番号と行き先を告げ、最後に停留所名を順に列挙する。
もちろん、哲司が降りる予定のバス停の名前も含まれていたが、以前には聞き覚えのないバス停の名前もあった。
(ん? “川上老人センター前”? ・・・、そんなのあったかなぁ・・・。)
哲司は昔の記憶を引っ張り出してみる。
確か、順序から考えたら、そこは“川上小学校前”だったんじゃないのか?
哲司も通った小学校だった。
(つづく)