第6章 明日へのレシピ(その86)
「で・・・。」
ミチルが何かを言い掛ける。
「ん?」
哲司は、ミチルの言葉を待とうとする。
「私の名前は堀川ミチル。お兄さんは?」
「ああ・・・、ごめん。俺、名乗ってもいなかったんだ・・・。
俺は、巽哲司。」
「わぁ、怖そうな名前・・・。」
ミチルは、言葉とは裏腹に、楽しそうに言いながら携帯電話を弄る。
どうやら、先ほど交換したメルアドに名前を登録するようだ。
「こんな字です?」
ミチルが携帯の画面を哲司に見せてくる。
「いや、これじゃなくって・・・。」
哲司は掌に自分の名前を書いて見せる。
「ああ・・・、じゃあ、これ?」
「そ、そうそう・・・。」
ミチルの携帯に哲司のフルネームが書き込まれていた。
どうしてか、照れくささを覚える哲司である。
哲司も、同じようにしてミチルの名前を登録する。
「堀川ミチル」と。
多分、これで合っているのだろうと思うのと、女の子のフルネームを確かめるのが恥ずかしくもあって、そのままで登録をする。
違っていたのなら、いつでも修正できるとの思いもある。
「ミチル、お兄さんには彼女さんがいるんだし、迷惑にならないようにね。」
ふたりのやり取りをじっと見ていた千佳がそう釘をさす。
ミチルに言っているように聞こえるが、哲司は、ある意味で自分にも向けられた言葉なのだと意識をする。
さすがに、大人な物の言い方ではある。
「はい。分ってます。」
ミチルが千佳の顔を見てそう答える。
「じゃあ、ここで・・・。」
千佳が哲司にそう切り出す。
ここで別れましょうという意味だろう。
「あ、うん・・・、じゃあ・・・いろいろとありがとう。」
哲司は、ふたりに軽く会釈をして、駅前のロータリーへと続く横断歩道へと歩き始める。
もう少し言いようがあったような気もしないでもないが、凛とした千佳の雰囲気に、背中を押されるようにして少し足早になる。
横断歩道の所まで来て、ふとふたりを振り返った。
女の子ふたりは、まだ並んで哲司の方を見ていた。
千佳は軽く頭を下げるようにし、ミチルはバイバイと手を振っていた。
(つづく)