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第1章 携帯で見つけたバイト(その4)

やはりその点を突かれるのが一番痛い。

金が欲しいからバイトをしているんだ。

それを、何らかの理由でもってカットされるのは嫌だ。

「されてたまるか」と思う。


この現場責任者も結構若い。

哲司よりは明らかに年上だと思うが、それでも30まではなっていないのじゃないか、そのように見える。

だから、先頭に立っていた30ぐらいだと思われる男が「あのう・・・」と言い出したとき、哲司には淡い期待があったのだ。

「何も、よりによって、こんな目立つところで、大の男が並んで体操なんかしなくてもいいじゃないか。」

そのように申し立ててくれないか、と考えた。

俺のように若いと言いにくいけれど、ほぼ同年代のあの「オッチャン」が言ってくれれば、あの責任者だって考えてくれたかもしれないと。


だが、現実は、哲司が考えるほど甘くはない。

そんな会話には到底行き着かない。

それどころか「まあ、適当にやっておれば」と考えていた哲司に、「うかうかはしてられんな」との思いを抱かせる結果になった。



「はい!さっさと並んで。」

現場責任者の声が一段と大きくなる。

皆が、渋々、道路の端に沿うようにして立つ。


「なんだ?・・・・君らは体操ってしたことがないのか?

そんな間隔で体操が出来ると思っているか?

幼稚園のお遊戯じゃあるまいし。」

もっと間をあけて立てと言う。


現場責任者の傍にいたあの「オッチャン」を基準にして、次々にその間を広げてくる。

一番後ろにいた哲司は、結局は3メートルほども動かされた。

ビルの出入り口の近くにまで押しやられる。


「おいおい、道路で体操するのでさえカッコ悪いのに、これじゃあ、ビルに出入りする人間に、俺の体操を見てくださいって感じになっちゃうじゃないか。

そりゃあないぜ。勘弁してくれよ。」

そうは思うものの、一言も言い出せるような哲司ではない。


そうしておいて、現場責任者は歩道に横付けしたライトバンから、今度はラジカセを取り出してきた。

それを見た哲司は、愕然とした。

どうやら、ラジカセで音楽を流すようだ。

小学校の頃の夏休みに、自宅近くの公園に毎朝集められてラジオ体操をしたのを思い出す。

だが、具体的なメロディーも思い出せないし、ましてや具体的な体操の手順などは皆目である。

音楽が鳴り始めても、そのラジオ体操を確実にやれる自信は無かった。


「なぁなぁ、ラジオ体操って知ってる?」

とうとう我慢ができなくなって、すぐ前に立っている同年代の男に声をかける。

こいつが知ってるのであれば、その後ろにいるのだから、見て真似をすればいい。そう思ったのだ。


だが、前に立っている男は、聞こえているはずなのに振り返りもしない。

哲司は、少なからず頭にきた。



(つづく)





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