第6章 明日へのレシピ(その85)
「・・・・・・。」
だが、ミチルはその後の言葉を続けては来なかった。
千佳が1階への階段を先に降り始めたからだ。
名残惜しそうにしながらも、大きな鞄を提げてその後を追う。
哲司は、今座っていた席の周囲を見渡す。
忘れ物がないかを確かめたのだ。
どうしてか、この癖は直らない。
哲司が階段を降りて店の表に出ると、その前にふたりの女の子は並ぶようにして立っていた。
「ご馳走様でした。」
千佳が言う。スカートから覗く脚が白く艶かしく見える。
やはり、女の子はパンツよりスカートだろうと哲司は思う。
「あのう・・・。」
その千佳の顔を横目で見るようにしながら、ミチルが言い掛ける。
「ん?」
「お兄さんの、メルアド教えていただけません?」
ミチルはそう言って携帯電話を握り締める。
「ど、どうして?」
哲司は、とっさに、そう言ってしまう。
女の子からそう言われることがなかったからでもある。
「だ、駄目です?」
ミチルが甘えるような顔で言う。
「い、いや、構わないけれど・・・。」
哲司はくすぐったいような気持で携帯電話を取り出す。
そして、メルアドの交換に応じた。
哲司の本音を言えば、悪いけれど、ミチルではなくて横にいる千佳と交換をしたかった。
それは、別に、千佳に女の子としての関心があったものではない。
それでも、何となく、千佳とはこのまま別れてしまうのが惜しい気がしていたのだ。
今までいなかった、異性の友達になれそうな気がしていた。
ここで、「はい、さようなら」とすれば、もう二度と会うことも出来ないだろうと思った。
だが、その千佳は、ふたりがメルアドを交換しているのを微笑ましそうに眺めているだけで、「じゃあ、私も・・・」とは言ってくれなかった。
「ありがとうございます。じゃあ、たまにメルしても良いです?」
ミチルは、哲司とメルアドを交換できたことを嬉しそうにする。
「う、うん。」
哲司は、そう答えるほかはない。
(つづく)