第6章 明日へのレシピ(その84)
「・・・・・・。」
哲司は答えようがない。
まさか、女の子から「扱いにくいでしょう?」と言われるとは夢にも思ってはいなかったこともあるのだが、かと言って「そうだね」とは肯定できない。
確かに、女の子と言うものは、厄介な代物だと思う。いや、思っている。
ツンと澄ましているかと思えば、突然に怒り出す。
他愛もないことに笑ったかと思えば、突然に泣いたりする。
一言二言で、その色が突然に変異する。
さっきまで右だと言っていたのに、今度は左だと言う。
昨日まで赤が好きと言っていたのに、今日になれば白が好きだと言う。
先月には、早く結婚がしたいと言っていたのに、今月には一生独身で通すなどと言う。
傍にいる哲司はその都度振り回されてばかりだ。
そう、千佳が言うとおり、まさに「扱いにくい」ものだと思う。
「でもねぇ、女の子側から言わせたら、男の子もこれまた扱いにくいものなのよ。
そうだよね? ミチル。」
千佳は、そう言って向いの席にいるミチルに視線を移す。
「そうですねぇ〜・・・。我侭だし、気ままだし、平気で嘘を付く。優柔不断で、何を考えているのかよく分からない。
でも、そのくせ、傍にいられると気になって仕方がない?」
ミチルが苦笑するように答える。
「・・・・・・。」
哲司は、自分のことを言われているかのような気持になる。
かと言って、それに真正面から反論できるだけの情熱もない。
「じゃあ、そろそろ行く?」
千佳がミチルに言う。
それでも、その言葉が暗に哲司に向けられたものであることは哲司自身がよく分かっていた。
(もう訊きたいことはないのね?)と言う無言の問いかけだと感じる。
「あっ、・・・はい。」
ミチルも、その辺りの空気を読めるらしく、ワンテンポ空けるようなタイミングで答えている。
哲司に、考える時間をくれたようだった。
「ありがとう。貴重な話を・・・。」
哲司は、まずはそう言った。
気持のどこかに、「このまま別れてしまって良いのか?」という疑問が渦巻いているのは意識にあったが、それでも、それがどうにも言葉になっては出てこない。
「お兄さん、この街に実家があるって言ってませんでした?」
荷物を持ちながら、ミチルが訊いてくる。
「ああ・・・、そうだけど・・・。」
哲司は、何故かしら、救われたようにそう応じる。
(つづく)