第6章 明日へのレシピ(その79)
「も、もう、それ以上は言わないの・・・。」
千佳はそう言ってミチルを抑える。
哲司は、その言葉に反応するかのように千佳の顔を見た。
千佳の顔も微妙に歪んでいる。
「だ、だって・・・。」
ミチルが、言わせてくださいと言う顔をする。
「・・・・・・。」
千佳は、前の席に並ぶようにして座る哲司とミチルに、黙ったままで首を大きく横に振る。
「お兄さんはそんな人じゃないわよ。だから、そんな人に向かって言っても・・・。ねっ!」
前段はミチルに、そして、最後の「ねっ!」の部分だけを哲司に向けてくる。
「・・・・・・。」
ミチルが千佳の視線の先を追うようにして哲司の顔を見る。
「だからなんでしょう? 私たちに付き合ってくれたのは・・・。」
千佳は、哲司の本音の部分を見透かしたように言ってくる。
「ん?」
哲司は、少し惚ける。そうしなければいられない何かを感じる。
「私も隠さないで言ったんだから、お兄さんも本当のことを教えてよ。」
「ほ、本当のこと?」
「う、うん。さっき言ってた“知り合いの子”って、本当はお兄さんの彼女でしょう?
間違ってたら、謝るけれど・・・。」
「・・・・・・。」
「やっぱり・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、内心、舌を巻いた。
千佳は、自分が話した親友の一件に対する哲司の反応をつぶさに見ていたようだ。
そして、今言ったような結論に達したらしい。
その観察力というか洞察力というか、そうした、俗に言う「人を見る目」をしっかりと持っているようだ。
哲司とほぼ同年代だろうと思われるのにだ。
「ほ、ほんとなの?」
横から、ミチルが哲司を覗き込んでくる。
もし、そうだとすれば、自分が言った言葉が完全に的外れになっていると思うからのようだ。
「・・・・・・。」
哲司は、口をつぐんだままで、ひとつだけ、こくりと頷く。
それしか出来ないし、したくはなかった。
(つづく)