第6章 明日へのレシピ(その77)
「その事実を隠して付き合っても、多分、自分は結婚なんて出来ないだろうって・・・。」
「そ、そんなぁ・・・。」
「だって、最初から大きな隠し事を抱えたままなんだからって・・・。」
「で、でも・・・。そうした言いたくはない過去って、誰にでもあるんじゃないです?
そんなことを言ってたら、誰も結婚なんて出来なくなりますよ。」
ミチルはそう言って抵抗感を示す。
何も言う必要はないんじゃないかという主張だ。
「実は、私もそう思ったし、その子にはそう言ったのよ。言うべきじゃないんじゃないかって・・・。
昔から“嘘も方便”って言うぐらいだしってね。」
「そ、それでも?」
「そうなの。黙ってられないからって・・・。」
「そう言う反面で、その彼ことが怖いって?」
「う〜ん、どう思われるか、どう反応するかが不安だったんだと思うわ。」
「う〜ん・・・。」
ミチルは、そう唸るように言った後、横の席に黙ったままで座っていた哲司の方へと視線を向けて来る。
「ねぇ、お兄さんだったら・・・、お兄さんがその子の彼氏だとしたら?」
「ええっ! お、俺が?」
「そ、そう。お兄さんが彼氏の立場だったら、その事実を聞かされたらどうするの?」
「う、う〜ん・・・、どうするかって言われても・・・。」
哲司は、とても即答できる状況にはない。
「黙って許せる?」
今度は千佳が訊いてくる。
「許すも許さないも・・・、それは彼女が悪い訳じゃないんだし・・・。
でも、その相手のことは許せないかも・・・。」
哲司は、場合は違うのかもしれないと思いはすれど、やはり奈菜の場合を頭において答えている。
奈菜からは、強姦されて妊娠をしたと聞かされている。
それでも、哲司は、「だったら、付き合うのは辞めておこう」とは思わなかった。
それどころか、そのお腹の子を産んで育てたいと言う奈菜の立場を擁護する気持さえある。
そうした気持が一体どこから来るのかは自分にも分ってはいない。
それでも、決して、表面的に「カッコつけてる」という軽いものではない。
そのことだけは自負できる。
「それを聞かされても、それからも以前と同様に付き合えるの?」
千佳がさらに追うように言ってくる。
「た、多分・・・。その子はあくまでも被害者なんだし・・・。その子に責任はないだろ?」
哲司は、それが答えだと言うつもりで、はっきりと言う。
(つづく)