第6章 明日へのレシピ(その76)
「そ、それとね・・・。」
千佳が少し言いよどむ。
「ん?」
それに呼応するかのように、ミチルが首を傾げる。
「その子、だんだん落ち込んで行っている様で・・・。
傷は、もちろん身体の傷なんだけれど、それは日々少しずつは治って行ってたわ。
でも、それに反比例するかのように、その子の様子がね・・・。」
「・・・・・・。」
「元来が明るくて元気な子だったんだけれど・・・。
その子が、私が行っても殆ど話しもしなくなっちゃって・・・。」
「・・・・・・。」
「どうやら、彼から何度も携帯に電話があったらしいのね。」
「ああ・・・、なるほど・・・。」
「そりゃあさ、彼は、そんなことがあっただなんて知らないわけだし、普通に、今度の休みには会おうよとかって話になるでしょう?
詳しくは言ってくれないから分らないんだけれど、会いたいとでも言って来られたんじゃないかって思うの・・・。
将来、結婚したい相手だって以前に言ってたぐらいだから、相当に親密だったんでしょうね。
それが1週間近くも会ってないんだから、彼がそう言ってくるのも当然と言えば当然よね。」
「そ、それで?」
「その子が言うの。“彼に会うのが怖い”って・・・。」
「こ、怖い?」
「うん。顔の傷はもう少しで殆ど分らなくなっていたんだけれど・・・、身体の方はね。
特に、胸と内股。」
千佳は、最後の言葉を殆ど哲司にも聞こえにくいほどに声を落とした。
「ああ・・・、なるほど・・・。だったら、そうなりますよね。」
ミチルも、その子の言うことに頷けるようだ。
「う〜ん・・・、私も、ミチルと同じように思ったわ。そう聞いたときには・・・。」
「えっ! ち、違うんですか?」
「どうもね。」
「・・・・・・。」
「どうやら、その子は、その事実を彼に告げようと思っていたみたいで・・・。」
「ええっ! 話すんですか? 彼に? ど、どうして?」
「う〜ん・・・、そこなのよね。」
「で、でも・・・、知られたくは無かったんでしょう?」
ミチルは、そう思うのが当然なんだからと言うような顔で問う。
「だから、私も、その点を訊いたのよね。すると・・・。」
(つづく)