第1章 携帯で見つけたバイト(その39)
「はい、OKです。」
廊下へと走った男がそう叫ぶ。
つまり、電源コードをコンセントに差し込んだ、という意味である。
「おい、山田はどこへ行ったんだ?」
香川主任が哲司に再度訊く。
「知りませんよ。監視しているんじゃないんで。」
哲司は少し皮肉の意味を込めて返す。
「それで、自分ひとりでやってるんだな。
あいつ、仕事はちゃんとしたのか?」
香川は哲司を気の毒そうに思ったのか、そのような言い方をした。
2人での作業なのに、山田が勝手に持ち場を離れたとでも思ったらしい。
「あっ!いえ、分担を決めてやってましたから、僕のほうが手が遅かっただけです。」
哲司が言い訳をする。
それを、香川は「山田を擁護している」と取ったか、
「あいつに、そう言えと言われたのか?」
と突っ込んでくる。
「いえ、そんなんじゃないんです。本当に担当するエリアを最初から分けてやっていたんで、それで、彼の部分が終わったみたいなので。」
哲司は、それとなく、「共同作業ではない、担当を分けてやっていたんだ」ということを訴えておく。
後々のことを考えてのことだ。
共同責任にはされたくなかった。
香川は、哲司の説明を分ったような分らないような顔で聞いている。
「ふ〜ん、そうなのか。
どうも、最近のニートやフリーターの考えてることはよう分からん。
協力し合ってやったほうが楽に決まっているのに、どうしてそうしない。
そういう協調性とか社会性というものが無いから、仕事に就けないんだ。
なぁ、違うか?」
哲司はその香川の言葉に、正直ムカついた。
かと言って、ここで激怒しても仕方が無いと思う。
「俺には俺の考えがあってやってんだ。ほっといてくれ!」
口を真一文字に引き締めて、この言葉を飲み込んだ。
「おい、山田。一体どこでサボってたんだ。」
廊下からふらりと入ってきた山田を見つけて、香川主任が大声を出した。
「ちょっと喉が渇いたので・・・。」
山田は、手にしていた缶コーヒーを香川に見せる。
いかにも、という顔をする。
香川は、何かを言いかけたが、こちらもどうしてだかグッと堪えたようだった。
「じゃあ、2人とも。今から、この掃除機の使い方を教えるから、よく見ておいてくれ。」
哲司と山田に向って、電気掃除機を紹介する。
「これって、2人でないと動かせないんですか?」
そう訊いたのは、缶コーヒーを手にしたままの山田だった。
(つづく)