第6章 明日へのレシピ(その74)
哲司は、もう完全に聴衆の立場だ。
千佳だって、既に哲司に話しているつもりはなくなっているようだ。
ミチルの眼を見て話している。
「痛くって、シャワーも浴びられないって・・・。」
「・・・・・・。」
「それで、私、洗面器にボディソープを泡立てて、それを私の掌に掬うようにして、その子の身体を洗うようにした・・・。
つ、辛かった・・・。可哀想だった・・・。」
「・・・・・・。」
聞いているミチルも、眉間に皺を寄せている。
同じ女性として、そうした痛みが分かるのだろうと、傍で見ている哲司は思う。
「で、私、改めて、病院へは行かないと・・・って言ったのね。
婦人科だけじゃなくて、外科で手当てをしてもらう必要があると思ったの。
それだけ酷かったし・・・。」
「い、行ったんです?」
ミチルが問う。
「・・・・・・。」
千佳が黙って大きく首を横に振る。
「い、行かなかったんですか・・・。」
「ひとつには、そんなお金もなかったってこと。
そして、もうひとつには、こんな状態で病院へ行けば、警察に通報されて、ことが公になるって・・・。」
「そ、そんなぁ・・・。」
「で、でもね、その子には、一応、将来を約束した彼氏がいたから・・・。
だ、だから・・・。
その気持は、分るわよね?」
「う、うん・・・。」
千佳に問われたミチルが何度も頷く。
「そうした彼に、こんなことがあったって、知られたくないって・・・。
そう言われると、私もどうしても病院へとは言えなかった・・・。」
「ち、千佳さんのお気持はよ〜く分ります。」
ミチルがそう強く肯定をする。
「だから、本当は、その彼に真っ先に電話を掛けたかったんだろうと思うの。
助けて!って・・・。
女の子の本音としたらね。
でも、その反面で、彼に申し訳ないって気持もあるのよね。
とてもじゃないけど、今、襲われましたって言えないわよ。
もちろん、自分が悪いわけじゃないんだけれど・・・。
で、私に電話をくれたんだと思うの。」
「・・・・・・。」
(そ、そうなんだ・・・。女の子って、そうなっても、彼氏には言えないんだ・・・。)
哲司は、改めて女の子の心理を教えられたような思いがする。
(つづく)