第6章 明日へのレシピ(その73)
哲司は、千佳が話すその友達の立場に奈菜を重ねて聞いている。
そりゃあ、多少の条件は違うのだろうが、18歳の高校生の奈菜が受けた衝撃というものはやはり共通するものがあるのだろうと思う。
それにしても、この千佳という子は、心根の優しい子だと哲司は改めて感じる。
今日から同じところでバイトをすることになったミチルが、「今夜泊まるところがない」と言えば「じゃあ、何とかしてあげる」と、あの駅前のロータリーのところで仲間たちにアピールをする。
それを渋られると、今度は自分がミチルと行動を共にすることを選択する。
やはり、困っている子を見ればそのまま素通りができないタイプなのだろう。
俗に言う「情に厚い親分肌」なのだと思う。
だからこそ、そのレイプ事件に巻き込まれた親友を放っては置けなかったのだろう。
「でね、お風呂でその子の身体を見て、私は息を呑んだわ。
も、もちろん、そのことに触れる訳には行かないんだけれど、もう全身に血が滲んだような痕があったし、殴られたんだろうと思うような青あざも幾つもあった。」
「・・・・・・。」
さすがのミチルも、この場面では声も出ないようだ。
「私、お風呂のお湯を熱い目にしたことを後悔したわ。だから、直ぐに少しお湯を抜いて、上から水を加えたの。
そうでもしなければ、その傷じゃあ、とても痛くって入れやしないって思ったから。」
千佳はそこでミチルが貸してくれたハンカチを目に当てる。
涙が止まらないのだろう。
「そ、そこまで・・・。」
ミチルが同感するように呟く。
「で、その子が自分でシャワーを浴びるって言ったの。
私も、その方が良いと思って、私だけが一旦浴室から出たの。
ひとつは、シャワーを浴びるのに邪魔になると思ったし、もうひとつには、傷薬を確認に行くためだった。
その子の部屋には何度も行ってたから、ある程度は勝手も知ってたしね。」
「・・・・・・。」
千佳の言葉がますます途切れ途切れになってくる。
その場面場面を丹念に思い出しながらのためなのだろうが、そのために、哲司もミチルも黙ったままで次の言葉を待つだけになる。
重たい空気が流れている。
「でもねぇ・・・、救急箱には、そうした傷薬は殆ど見当たらなかった。
ガーゼと絆創膏はあったけれど・・・。
やっぱり、病院へ連れて行くべきだって思った・・・。」
「・・・・・・。」
「そ、そうしたらね・・・。」
「ん?」
「お風呂場から、私を呼ぶの・・・。」
(つづく)