表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
386/958

第6章 明日へのレシピ(その72)

「私・・・、迷ったんだけれど、その子の言うとおりにするつもりで、“分った”って答えたの。」

千佳は、また痛そうな顔をする。

そう、まさにしかめっ面だ。

それだけ、衝撃的で重たいことだったのだろうと思われる。


「そ、それで?」

女の子同士だから言えるのだろう。

ミチルがその先を催促するように言う。


哲司は、もはや何も言える立場ではないような気がしている。

ただ、周囲のことが気にはなる。

ここはファーストフード店である。



「お風呂にお湯を張ってから、その子に“入れるわよ”って言ったの。

そしたら、とうとう泣き出したの。」

「・・・・・・。」


「分るわよね。泣きたい気持って・・・。だから、私、その子を抱きしめてた。

こんなにか細い子だったのかって思った・・・。」

千佳の言葉が次第に小刻みになる。

当時の映像を、そのひとコマひとコマを繋ぎ合わせているようにも感じられる。


「ひとしきり泣いて、泣くだけ泣いて、ようやくしゃくり上げるような声になって・・・。

で、私、その子の背中をポンポンと軽く叩いた。

そう、赤ん坊をあやす時みたいに・・・。

そろそろ、お風呂入ろうって言うつもりでね。」

「・・・・・・。」


「で、ようやくその子が顔を上げた。その顔は、何度か殴られたように腫れ上がってた。

きっと、無意識のうちにでも、出来るだけの抵抗はしたんだと思う。

だから、あんなに殴られて・・・。

唇も切れてたし、目の周囲にも青アザのようなものがあったわ。」

「ひ、酷い・・・。」

ミチルが顔をしかめるようにして言う。


「あれを見たら、やっぱり警察に・・・。私は、そう思った。

で、でも・・・、それは言えなかった。

その子の気持を思うとね・・・。」

「・・・・・・。」

ミチルが千佳の言葉を肯定するかのように、そこで大きく2度頷く。


「その時、多分、私も泣いてたんだと思う。

その涙をその子が指で拭いたの。そして、言ったわ。

“ありがとう”って・・・。」

「・・・・・・。」

ミチルがハンカチを手にした。

そして、それを向かいに座っている千佳の方へと差し出した。


哲司がその先を視線で追うと、そこには涙を流した千佳の顔があった。



(つづく)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ