第6章 明日へのレシピ(その70)
「それって、やっぱり、ひとりでは子供を育てて行けないって思うから?」
哲司が千佳に向かってそう問い返す。
どちらかと言えば、非常に現実的な考え方をする子だと思うからだ。
「うん。それが一番かな?
一時の感情で産んでも、その子をちゃんと育ててあげられないのであれば、それって、やっぱり親の身勝手になると思うし・・・。
育てる自信がないのに産むなんて、罪でしょう?
私は、今でも自分のことだけで精一杯。
ミチルのお姉さんみたいに、子供を抱えて、なんてとても考えられない。
ほんと、その点は、お姉さんは凄いとは思うわ。」
千佳は、最後の部分は、ミチルに視線を送って言う。
「う〜ん、なるほど・・・。」
哲司は、内心「やっぱりな」と思う。
哲司とほぼ同年代だと思えるのだが、千佳は見た目よりははるかに堅実的な考え方をするようである。
「だから、私は、“出来ちゃった婚”なんてのも邪道だと思うの。
出来た責任を取れって言うのも卑怯でしょう?
その責任の半分は自分にもあるんだし。
まぁ、私のマブダチみたいな目にあった子は別にしてね。」
「えっ! そ、その子も?」
哲司は「その子も妊娠をしたのか?」という言葉を飲み込んだ。
「ううん、その子は無事だったけれど・・・。」
「そ、それは良かった・・・。不幸中の幸いと言うか・・・。」
「結果はそうだったけれど・・・。マジ、心配してたよ。
何しろ、どうもひとりやふたりではなかったみたいで・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、同じような場面があの奈菜にもあったのかと思うと、それだけで身震いが起きそうになる。
もちろん、怒りのためだ。
「私ねぇ、その子から電話を受けたのよ。解放された直後に・・・。」
「・・・・・・。」
「丁度、バイトが終る時刻でね、で、直ぐに言われたビルのところに駆けつけたの。」
「・・・・・・。」
哲司は、敢えて黙ったままで聞く。
下手に言葉を挟まない方が、生の話が聞けそうな気がしたからでもある。
「電話では、殆ど状況を言ってくれなくって・・・。ただ、直ぐに来て、助けて、って言うだけで・・・。」
「そ、それで?」
黙っていることに息苦しさを覚えた哲司が、そう合いの手を入れる。
「その子の姿を見ただけで、私、何が起きたのかは直ぐに分ったわ。
それはそれは、酷い恰好だったもの・・・。」
千佳は、自分の服の袖を引き裂くような仕草をして見せた。
(つづく)