第6章 明日へのレシピ(その68)
「ど、どうして?」
千佳が強い調子で問い詰めるようにしてくる。
「う〜ん・・・、それがよく分からないんだ。だから、困ってる。」
哲司は正直に言う。
事実、奈菜がどうしてお腹の子を産みたいと言うのかが判然としない。
分っているようで、理解は出来ていない。
「わ、私は・・・、分るような気がする。」
ミチルが少し遠慮気味に小さな声で言う。
その言葉に、哲司だけではなく、千佳もミチルを見つめるようにする。
「ミチルは、どうしてそう思うの? まるで、経験者みたいな言い方をして・・・。」
千佳がミチルを責めるように言う。無責任だとでも言いたげだ。
哲司は、敢えて何も言わない。
「私のお姉ちゃん、私生児を生んでいるの。」
「・・・・・・。」
ミチルの言葉に、千佳が何かを言いかけて、それでも口を閉ざした。
哲司は、周囲をそれとなく見渡すようにする。
こうした微妙な話になるとは思っても見なかったが、この場でミチルにそれ以上のことを話させても良いのだろうかという不安が頭をよぎった。
「も、もちろん、そうした犯罪がらみじゃあないけれど・・・。」
「・・・・・・。」
千佳も哲司も黙って聞いている。
それしか方法はない。
「結婚できない相手の子で・・・。つ、つまり、不倫・・・。
だから、両親も私も、産むのは反対したんだけれど・・・。」
「ミチルのお姉さんって、幾つ?」
千佳が言葉を選ぶように口を挟む。
「今は25。子供が2歳。」
「つまりは2年前だよね。生まれたの。」
「う、うん。」
「認知はしてもらったの?」
さすがに千佳も周囲に気を配るようにして、小声で話す。
「・・・・・・。」
ミチルは、黙って頭を横に振る。
「だってね、その相手の人が、“本当に俺の子かどうか分らない”って言ったらしいの。」
「だ、だからって・・・。」
「お姉ちゃんは、それでも“産む”って言い張って・・・。」
「・・・・・・。」
「だから、その子の気持も、何となく分るような気がして・・・。」
ミチルはそう言って、哲司の顔を見た。
(つづく)