第6章 明日へのレシピ(その67)
「手遅れだったってこと?」
千佳が、これまた前のめりの姿勢になって突っ込んでくる。
待っていても、哲司が次の言葉を吐き出しそうに無かったからだろう。
「手、手遅れ?」
今度は、哲司が問い返す。その意味がよく分からなかったからだ。
「そ、そう・・・。気が付くのが遅れて・・・。」
「ああ・・・、そういう意味ねぇ・・・。」
哲司も言われたことの意味を理解する。
「じゃあ、ないの?」
「う〜ん・・・、それが・・・。」
「じ、じれったいわね。言っちゃってよ。そのために、私たちに付き合ってくれたんでしょう?」
「まぁ、それはそうなんだけど・・・。」
「産みたいって?」
突然、横に座っていたミチルが割り込んだ。
それまでは、千佳と哲司の会話を黙って聞いていたのにだ。
「えっ!」
ズバリを言い当てられて、哲司は思わずミチルの方に視線を移す。
「ま、まさか、それは無いでしょう?」
千佳がミチルの言葉を否定しに掛かる。
「ど、どうして、そう思うの?」
哲司は、事実を答える前に、ついそう訊いてしまう。
もちろん、その視線はミチルに向けられたままだ。
「う〜ん・・・、どうしてって言われても・・・。」
ミチルが答えに困ったような顔をする。
思わず話に割り込んだものの、千佳にそれを「あり得ない」と否定をされたからでもあるのだろう。
「ん? と、言うことは? そ、そうなの?」
哲司がミチルの言葉を即座に否定しなかったのを見て、千佳が驚いたように確認を求めてくる。
千佳とミチルの視線が、哲司の口元に注がれる。
「ま、まあね・・・。」
哲司は、曖昧な表現ながらも、それを認める。
そうでもしなければ、ここから先に話が進められないと思ったからだ。
「ええっ!」
「や、やっぱり・・・。」
千佳とミチルの声がその後を追うように搾り出されてくる。
同じ女の子でも、やはり受け止め方は区々のようである。
(つづく)