第6章 明日へのレシピ(その66)
「よ、4時間?」
哲司が素っ頓狂な声をあげる。
千佳は、黙ってこくりと頷く。
「そ、その間って・・・。」
哲司にも、その時間にその女の子の身の上に起きたであろうことは想像できる。
少なくとも、「レイプ集団」というキーワードが前提にあるからだ。
だが、具体的なものは何も浮かばない。
「その子も、自分に何があったのか、さっぱり分らなかったそうよ。もちろん、その時にはってことだけど・・・。」
千佳は、新たな煙草に火をつけてから、そう言ってくる。
「じ、じゃあ・・・。」
哲司は、その後に続くべき言葉を無理矢理飲み込んだ。
「そ、そりゃあ、自覚症状はあるわよ。幾ら昏睡状態だったとしても・・・。」
千佳も、それ以上の言葉は使わない。
「け、警察には?」
「う〜ん・・・、悩んでいたみたいだけれど、結局は届けてないわ。あれって、女の子にしたら、相当な覚悟が要るのよ。
自分の身体しか証拠は無いんだからね。
男の人には分らないと思うわ。その気持って・・・。」
「だ、だからって・・・。」
哲司は、「男には分らない」と言われて、それ以上は突っ込めない。
奈菜の話を聞いたときと同じ感情が沸いてくる。
「だから、そうした輩が図に乗るってことは分るのよ。
それでもねぇ・・・。
もし、私がそうした被害にあっても、恐らくは表沙汰にはしないと思う。」
「に、妊娠しても?」
哲司は、出来るだけ身体を前に押し出して、小声で、本当に小声でそう訊く。
「う〜ん・・・、やっぱり、同じね。もちろん、始末しちゃうけれど・・・。」
千佳は、哲司の視線を弾き返すようにして、そう断言する。
「や、やっぱ、そ、そうかぁ〜・・・。」
哲司は、改めて、そう考えるのが一般的なのだろうと思う。
「お兄さんが知ってる子も、そうしたんでしょう? それとも、届けたの?」
千佳は、ごく常識的には、警察にも届けないで出来た子供は始末するのが順当なのだが、こうして哲司がその話に拘りを見せるのは、ひょっとしたら警察沙汰になったのかもしれないと考えたようだ。
「いや、届けてはいない。届けてはいないんだけれど・・・。」
「ん?」
千佳は、哲司の言葉に驚いたような顔をした。
「ま、まさか・・・。」
千佳は、哲司の顔を睨むようにして、次の言葉を待っている。
横に座ったミチルが息を呑む。
(つづく)