第6章 明日へのレシピ(その63)
(言葉を選ばなくては・・・。)
そんな思いが哲司にはあった。
「煙草、吸っても良いです?」
千佳が煙草ケースを取り出して訊いて来る。
食後の一服をしたいらしい。
「うん。どうぞ・・・。」
哲司は了解をする。
自分は吸わないが、だからと言って傍で吸われるのが嫌な訳ではなかった。
愛煙家ではないが、だからと言って嫌煙家でもない。
家では、父親も吸わなかった。
昔は吸っていたらしいが、健康のためにと、もう何年も前に辞めていた。
したがって、哲司には父親が煙草を吸うイメージが無かった。
そんな父親に対する反抗心が、高校時代の隠れ煙草に繋がったのかもしれない。
哲司は、何となくだが、そう思っていた。
哲司はどう切り出そうかと考えながら、その一方では目の前で煙草に火をつける千佳の様子をぼんやりと捉えていた。
千佳が一服目を吸い込む。
そして、喉の奥でその煙を転がしたかと思うと、口の先を小さく尖がらせて、自分の横の空いている席に向かってゆっくりと吐き出す。
(わっ! 結構、カッコいい!)
哲司は見惚れた。
哲司も男だ。だから、やはり煙草を吸う女の子はどちらかと言えば苦手だ。
別に、煙草を吸う女性が嫌いなのではなくって、他人から見たときのバランスをつい考えてしまうからだ。
女の子の方が強く見えるのではないか、そんなことを危惧するからだった。
他のことにはあまり頓着しない哲司だが、どうしてか、女の子とのバランスだけは、他人の眼を意識してしまう。
それだけ、その部分に関して自信が無いのかもしれないが、この千佳に関しては、不思議とそんな感情も沸いてこなかった。
「で、聞きたいことって?」
そうした哲司を見かねたのか、千佳の方から水を向けてくれる。
そして、吸っていた煙草の先を灰皿の中でトントンと叩くようにして火を消した。
まだ、3服ぐらいしか吸ってないだろうに・・・。
哲司は上半身を前に乗り出させる。
そして、改めて周囲を気遣うように小声で訊いた。
「さっき言ってた、れ、レイプ集団のこと・・・。」
「ん? ああ・・・、そのこと?」
さすがに、千佳もその単語は口にしなかった。
だが、そう言った目は、どうしてそれを? という疑いの色が浮かんでいる。
改めて、警戒心を抱いたようだった。
(つづく)