第6章 明日へのレシピ(その62)
「えっ! 彼女? ・・・。」
哲司は、そう言った瞬間には奈菜の顔を思い浮かべたものの、どう答えるかは躊躇した。
「そんなものいないよ。」
結局は、そう答える。いや、そう答えておく。
「募集中なんです?」
ミチルが畳み掛けてくる。
哲司は苦笑するしかない。
「ミチル、それはお兄さんに失礼でしょう?」
ハンバーガーを頬張りながら、千佳が牽制球を投げてくれる。
「それとも、ミチルが立候補するつもりなの?」
今度は、一転して煽るように言う。
「そ、そんなぁ・・・。」
そうは言ったものの、ミチルは満更でもないような笑みを浮かべる。
そして、千佳と哲司の顔を交互に見比べるようにする。
哲司は、嬉しいというより、呆れて言葉も出ない。
そうも簡単に、そうした会話がなされるのが不思議な気がするのだ。
「お兄さん、どうします?」
まるでゲームでも楽しむかのように、千佳は前の席に並んで座るふたりを見ながら面白そうに言ってくる。
「ど、どうもしないよ。」
「私みたいなのには、興味ないです?」
横に座ったミチルが身体を乗り出すようにして訊いてくる。
どうやら、冗談ではないらしい。その目は結構真剣だ。
少なくとも、哲司にはそう思えた。
「う〜ん・・・、まだ、出会ったばかりなんだし・・・。」
哲司は、ここで答えを出せる筈は無いだろう? という感覚でそう返す。
このままだと、とんでもないことになりそうな気さえしてくるからだ。
「はい、ご馳走様でした。ほんと、美味しかった・・・。」
千佳がハンバーガーを包んでいた紙を小さく畳むようにしながら小さく頭を下げる。
結構常識的なんだと哲司に思わせた。
哲司は、黙って会釈を返す。
「ああ・・・、千佳さん、早い・・・。」
「何を言ってるのよ、ミチルが遅いだけよ。」
「で、お兄さん、何か、聞きたいことがあるんでしょう? 答えられることであれば、何でも言って・・・。」
千佳は、先ほど哲司が言い掛けたことをちゃんと覚えているようだった。
「ご馳走になったお礼に」との前提はあるようだが、積極的に答えてくれるつもりらしい。
哲司は、それでも周囲を見渡した。
(つづく)