第1章 携帯で見つけたバイト(その37)
そんな事を考えながらでも、手だけは動く。
ペットボトルはペットボトル、缶は缶。
手に持っただけで、その感触で区分している。
袋を左右において、右・左と放り込んでいく。
単純な作業である。
そして、それなりに順調である。
ようやく分隊長と軍曹の作戦会議が終わったようだった。
及川に何事かを多少強い目の言葉で言われたようで、部下の立場である香川主任はひたすら頭を下げていた。
距離があるから話の内容は分らないのだが、どうやら先ほどの装置の一件で叱られたらしい。
「じゃ、後の詰めを誤るなよ。」
及川はそう言って香川を解放した。
まさに、そう呼ぶのに相応しいような香川の顔が印象的だった。
それで、及川は1階へ戻るのだと思っていたら、その足でまっすぐ哲司のいる場所に向ってくる。
「うわ、・・・・なんでくるんだ?」
哲司は内心たじろいだ。
別に現場責任者に叱られるようなことはしていない。
そのはずである。
トラブルを起こしたのも、自分ではなく、あの山田なのだ。
そりゃあ、あの装置が一体どのようなものかは知ってはいた。
そして、それを黙っていた。
でも、そのことは、誰も知らないはずだ。
この場に、あの大黒先輩でもいない限り、そんなことが分るはずは無い。
及川が近づいてくるのが分りつつも、敢えて、気づかないような顔をする。
「何にも関係ないですよ」と言いたい気分だ。
「巽君、だったよな。」
及川が声を掛けてくる。
そこで、ようやく気がついた振りをして、顔を上げる。
ここまで来たら、どうしようもない。
「はい、・・・・」
後は、及川の顔色を窺うだけである。
「明日は、午後からになる。詳しくは今夜のメールで知らせるけれど、来れるよな。」
及川は、明日のことを口にする
「ば、場所はどの辺ですか?」
どうでもいいことだとは思うのだが、他に言葉が見つからないから、そう訊く。
「駅の向こう、西口の前のビルだ。今度は、搬入をやる。」
「搬入ですか・・・・。」
哲司は少し意外な気がした。
通常、バイトは搬出元、つまり引越しの出る側での仕事が殆どなのだ。
受け入れる場合には、顧客が立ち会って荷物の置き場所まで指示をすることになるから、当然に清掃などの軽作業は少ない。
「不満か?」
及川が哲司の戸惑いを感じたのか、そう念を押してくる。
「いえ、そんなことはありませんけれど。」
どんな作業をさせるつもりなのだろう? との不安はあるが、特に断る理由も無い。
今のところは・・・である。
(つづく)