第6章 明日へのレシピ(その55)
「う〜ん・・・・・・。」
哲司は唸るしかない。そして、目の前のふたりの顔を見上げるようにする。
「聞いてたでしょう? 私たちが話してるのを。」
「い、いや、別に・・・、そんなことは・・・。」
「別に隠さなくっても良いわよ。私たちも、在りのままを喋ってたんだし・・・。
で、今夜、泊まるところも無いって知って、付けてきたんじゃないの?」
「そんなつもりは無いよ。」
哲司はその点だけははっきりと主張したい。
「そりゃあさ、この辺りで、そうして“売り”をする子もいるらしいけれど、私たちはそんなことはしない。そこまでは落ちぶれてない。」
「だ、だから・・・、そんなつもりじゃないんだって・・・。」
哲司は、やや語気を強めて言う。
「だ、だったら・・・、どういうつもりだったの?」
千佳が突っ込んでくる。痛いところをついてくる。
「この子達、これからどうするんだろう? っていう興味よね?」
ミチルがこのタイミングで横から口を挟む。
助け舟を出しましたという顔でだ。
そして、哲司の横に腰を下してくる。
哲司は、反対側へと少しだけ尻を動かす。
「それとも、あなたも私たちと一緒なの?」
依然として哲司の前に立っている千佳が上から物を言う。
「ン? 一緒?」
「つまり、フリーター?」
「・・・・・・。」
哲司は、肯定も否定も出来ない。
「あはっ! どうやら図星だったみたいね。
でも、男の子は良いよね。どこででも寝られるし・・・。」
千佳の言葉が、やや柔らかさを取り戻す。
それまであった警戒心を少しだけ緩めたような顔をする。
「ちゃ、ちゃんと、寝る場所ぐらいは持ってるよ。」
哲司は、君たちとは違うんだとでも言うように、そう言いきる。
「そ、それって・・・、自分ち? 親と同居なの?」
千佳が即反応する。
「い、いや、ひとりで住んでる。いわゆるワンルーム。」
哲司は、アパートと言う言葉を意識して避けた。
「えっ! そ、そうなんだぁ〜・・・。そ、それって、市内?」
「この市内じゃあない。」
「じゃあ、どこ?」
「隣の県だよ。」
「・・・・・・。」
千佳の顔に落胆の色が浮かんだ。
(つづく)