第6章 明日へのレシピ(その53)
哲司は狼狽する。
まさかとは思うが、先ほど、このふたりの後を付けたことを感づかれたのではないかという不安があった。
「それとも、誰かを待ってるの?」
また女の子達が言う。
まるで、逆ナンパである。
哲司が顔を上げる。
意識して足元に落とした視線だったが、この期に及んでは、もはやそうする意味もない。
(ん? 何かが違う!)
視線をふたりの顔まで這い上げてから、哲司はそう感じた。
何かしら、先ほどまでの印象とどこか違うのだ。
攻守が逆転した所為かもしれない。
哲司がふたりの顔を見たとき、彼女達も互いに顔を見合わせた。
哲司には意味が分らなかったが、どうやらふたりは何事かを確認しあったようだった。
「別に・・・。俺が、どこでどうしていようと、君たちには関係ないだろ?」
哲司はそう言い放つ。まずは、先制攻撃のつもりだった。
意識して悪びれる。
「デートの待ち合わせ?」
女の子達はそんな哲司を無視しない。それどころか、一言返しただけで、会話が成立したと思ったようだった。
やはり、2対1。数の優勢を意識しているらしい。
「そんなんじゃない・・・。」
哲司は、それだけしか言えない。これで守勢に回ってしまう。
自慢じゃないが、哲司はナンパを仕掛けたことはあっても、逆ナンパを受けたことはない。
第一、そんなにイカシテルとも思ってないし、それに対応できる金銭的余裕もない。
だから、こうして女の子から声を掛けてくるのは、何らかの企みがあるのだと思っている。
いわゆる「性悪説」に立っている。
それなのに、どうしてか、ふたりのアプローチを無視できないのだ。
やはり、「尾行をした」という負い目があるからだろう。
「この近くに住んでるの?」
どうやら、盛んに仕掛けてくるのは千佳のようだ。
「いや、市内は市内だけれど・・・。」
「大学生?」
「いや、違う。」
「じゃあ、仕事中?」
いかにも、サボっていると言わんばかりの言い方をされる。
哲司は、どこで打ち切ろうかと、そればかりを考える。
(つづく)