第6章 明日へのレシピ(その48)
「ああ・・・、ど、どうも・・・。」
哲司は、正直、戸惑いを覚えた。
確かに、携帯番号を交換したし、あの女性からはメールアドレスも貰っていた。
それでもだ、まさか、向こうから掛かってくるとは思ってはいなかった。
しかも、あれから、そんなに時間は経ってはいない。
「おかげさまで、無事に実家に着きました。お礼方々、そのご報告をしようと思いまして・・・。薫もすこぶる上機嫌で・・・、これも、巽さんのお陰です。
本当に有難うございました。」
「いえいえ・・・、僕の方こそ、御飯までご馳走になりまして・・・。」
「御口に合いましたかしら?」
「はい、美味しかったです。」
哲司はここは嘘を言った。まさか、まだ食べてませんとは言えなかった。
「ああ・・・、そ、そうだ。」
哲司は、天使を見たような気がした。
「はい?」
「今、お時間良いです?」
「ええ、構いませんが・・・。」
「実は・・・か、彼女から先ほど電話がありまして・・・。」
「ああ、あの高校生の?」
「はい。で、今日、検診に行って来たって言うんです。」
「ああ・・・、定期検診ですね。」
「あれって、急遽、日程が変わったりするものなんですか?」
「いえ、それはないと思いますよ。無論、こちらの都合で日にちの変更を頼むことは出来ますけれど・・・。」
「ああ・・・、やっぱり・・・。」
「ん? どうかされたんですか?」
「いえね、今朝の時点では、明日の予定だったんです。それなのに、さっきの電話で、今日、行って来たと・・・。」
「じゃあ、彼女さんの方から病院に変更を頼まれたんじゃないでしょうかね。
そうとしか、考えようがありませんもの。
でも、可愛いじゃありませんか? そうして、ひとつひとつ連絡してこられるんですから・・・。
で、結果は?」
「異常なしで、順調だと言われたと・・・。」
「そうですか、それは良かったですねぇ。初めての妊娠だと、どうしても不安が先に立つものですから、ぜひ、話だけでもちゃんと聞いてあげてくださいね。
女って、誰かにそうして聞いてもらえるだけで、随分と落ち着くものなんですよ。」
「そ、そうなんですか・・・。」
「だから、一報を入れてこられたんだと思いますよ。事情はいろいろとおありなんだと思いますが、是非、ゆっくりと耳を傾けてあげてください。
巽さんの優しさに頼ってこられてるんだと思いますから・・・。」
女性は、母親となる女の子の心境をそう代弁する。
(つづく)