第6章 明日へのレシピ(その46)
「分った。8時過ぎね。じゃあ、必ず電話するから・・・。」
「う、うん。」
それで奈菜が電話を切った。
哲司は、正直、ほっとした。
「ん! ん?」
哲司は、ポケットに仕舞掛けた携帯を再度掌に戻す。
何かが引っかかった。
「ま、まてよ! ・・・・・・。」
哲司はメールを開ける。
(やっ、やっぱり、そうだ!)
今朝、私鉄の駅まで来たとき、奈菜と出会った。
これからバイトに行くのだと言っていたが、哲司は待ち構えられていたような気もした。
で、そこで別れて、券売機で切符を買っているときにメールが来た。
ホームに上がってからそのメールを読んだ。
「明日、検診に行ってきます。」
そうなのだ。検診は明日の筈だった。
(じゃあ・・・、どうして?)
哲司はそのメール画面を睨みつけるようにしたまま動けなくなった。
今、奈菜は、「今日、検診に行った」と言った。
おまけに、「どうだった?」との問いに、「順調ですって言われた」とも返してきた。
本当に、検診に行ったのだろうか?
よくは知らないが、ああした検診というのは定期的に行うもので、病院だって事前に日程をきちんと決めてくるものだろう。
何かの都合で、明日の予定が急遽今日に変えられたのか、それとも奈菜が自分の体調に異変を感じて、それによって今日に変更となったものなのか。
そうしたことが無い限り、普通は予定通りに行われる筈だろう。
哲司は、不安になる。
奈菜に電話してみようか、とも思ったりする。
それでも、その指が動かない。
「ま、まさか・・・。」
哲司は、最悪のシナリオを思い浮かべる。
「試された?」
奈菜のことを本当に思っているのであれば、「今日、検診に行きました」と言われたとき、「それって、明日じゃなかったの?」と問うべきだった。
それがごく自然な会話だろう。
だが、哲司は、そのことを失念していた。
その事実を、奈菜がどう思ったのかである。
(つづく)