第6章 明日へのレシピ(その39)
(この子達にも親はいるだろうに・・・。)
哲司は自分の足元に視線を落とすようにして、横に座っているふたりの顔をそれと無く見る。
いずれも若い。
ま、話の様子からすれば、20歳にはなっているようだし、カッコいい言い方をすれば「自立」をしていると言えないこともないのだが、同世代の哲司から見ても、何とも不安定な生き方をしているようにも感じる。
(そこまで、突っ張らなくっても良いんじゃないのか?)
哲司はそうふたりに言いたくなっている。
もちろん、口に出せる筈も無いのだが・・・。
君達も、家に帰ればお父さんやお母さんがいるだろう?
毎日、泊まる場所をそうして探さなくては行けないほどだったら、実家に戻って甘えたら?
きっと、ご両親も喜ぶよ。
ましてや、君達は女の子だ。ご両親はきっと心配してるよ。
ね、そうしたら?
「じゃあ、そろそろ行こうか?」
哲司の呟きが聞こえた筈は無いのだが、隣に座っていた千佳がミチルにそう声を掛ける。
「あ、はい・・・。」
ミチルが足元に置いていたバックを持ち上げながら答える。
「ミチル、荷物はそれだけ?」
「はい。」
「あとの荷物は?」
「コインロッカーに・・・。」
「えっ! でも、お金掛かるでしょう?」
「まぁ、それはそうですけれど・・・。千佳さんは?」
「私は、これが全財産。」
千佳がこれまた足元に置いていた大きなバッグを足で蹴るようにして言う。
(そ、そっかぁ・・・、だから、この子達が持っているバッグが異常に大きく感じたのは・・・。)
哲司は、千佳の言葉に彼女達の現実を思い知る。
身の回りのものをすべてこうしたバッグに詰め込んで、持ち歩いているのだ。
まさに、都会を漂流している状態である。
哲司は、今、千佳が言った「財産」と呼べるものは自分に無いだろうと思う。
確かに、アパートがあり、テレビや洗濯機、冷蔵庫など、最低限の生活が出来る設備の中に暮らしてはいる。
だが、そのいずれもが親から買い与えられたものだ。
何ひとつとして、自分の力で得たものではない。
毎日の食費だって、親からの仕送りでギリギリだが賄えている。
したがって、生きるため、食べるために働くと言う考えを持たなかった。
じっとして動かなければ、なんとか日々か過ぎていっていた。
(つづく)