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第6章 明日へのレシピ(その38)

「住民票はそこにあるの?」

千佳が少し考えるようにして訊く。


「はい、動かす先が見つからないもので・・・。」

「う〜ん、だとすると、早い目に住民票を動かす先を見つけなきゃねぇ。見習いから本採用になるときには、住民票まで出さされるよ。」

「えっ! 本当に?」

ミチルが困ったような顔をした。


「あの店というか、あの会社、見習い採用は店の裁量で出来るらしいんだけれど、本採用のバイトの場合は、本店が一括して管理するみたいなの。」

「本店って?」

「東京よ。そこのコンピューターに全従業員のデータベースがあるみたいよ。

賃金もそこから振り込んでくるし、過去のバイト暦もすべてチェックしてるみたい。

ミチルは、以前に同じチェーン店でバイトしたことあるの?」

「いえ、初めてです。」

「そう、それだったら良いけれど・・・、以前にバイトしてて、何か問題を起こして辞めた子は二度と採用しないのよ。徹底してるわよ。」

「厳しいんですねぇ・・・。」


「まあね、会社や店を逆恨みする子もいるようだし・・・。」

「?」

「知らない? 以前、他のファーストフード店なんだけど、わざと賞味期限が過ぎた食材を使って問題を起こした子がいてね。

それって、店への復習だったみたいで・・・。」

「ヘェ〜、そんなことが・・・。」

「だから、会社側もそうならないようにと、従業員の管理は厳しくしてるのよ。

一昔前のバイトっていう感覚はもうないわね。

そのくせ、時給は以前と殆ど変わらない・・・。」



(へぇ〜、今は、そうなってるんだ・・・。)

哲司は、いつしか千佳の言葉を必死で聞いている自分に気が付く。


最初は、この子達も自分と同じような環境にいるんだとの親近感があった。

バイトで生活をしている。

自分ほどではないにしろ、ある程度は気楽な生き方をしているのだろうと思った。

だが、どうやら、そうした考えは間違っていたようだ。

定住できる場所すら、なかなか確保できないらしい。


哲司は、バイトはあくまでも小遣い稼ぎだとのイメージを持っている。

これは高校時代から何ひとつ変わってはいない。

昔の、そう父親の若かりし頃の苦学生じゃあるまいし、生活を支えるために、つまりは食べるためにバイトをするなんて感覚はまったく無かった。


現に、哲司は今でもそうした働き方しかしてはいない。

何かが欲しいとき、何かをしたいとき、その時に必要な金さえ稼げれば良い。

それがバイトに対する金銭感覚だった。


最低限の食と住は親が出してくれている。

それが当たり前だとは思っていないが、まだ大学にいると考えればそれも致し方ないだろうという身勝手な考えである。


だが、今、同じ長椅子に腰を下しているふたりの女の子は、そのバイトで生活をしているようだ。

自分とは違う人種だと思うしかない。



(つづく)



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