第6章 明日へのレシピ(その36)
「使い捨て?」
ミチルはその言葉に抵抗を感じたようだった。
「ミチルは若いでしょう? それに、今日からの勤務だから、2週間は“研修生”、つまりは見習い期間でしょう?」
「ええ・・・。そう、聞かされましたけど・・・。」
「時給も最低賃金の扱いよね。」
「まあ、それは仕方が無いかと・・・。即戦力じゃあないですしね。」
「仕事、難しい?」
「う〜ん・・・、初日ですから、緊張はしましたけれど、仕事そのものはそんなには。
何とかやれると思います。」
「でしょう?」
「ん?」
「今日は休みだったけれど、あの店のバイトに、永末春子っておばさんがいるの。
おばさんって言っても、まだ30歳ぐらいなんだけれど・・・。」
「その人が、どうかしました?」
「次に辞めさせられるのは、その人なの。多分、今月一杯でクビね。」
「えっ! どうしてです? 何か失敗でも?」
「その後釜が、ミチルなのよ。」
「えっ! ・・・ど、どうして、そうなるわけ?」
「ミチル、統一契約書って、中身読んだ?」
「ああ・・・、あの細かい文字がびっしりの・・・。よ、読んではないですけれど・・・。」
「一度、よ〜く読んでおいた方が良いよ。良い意味も悪い意味も含めて・・・。」
「ど、どうしてです?」
「私たちの立場がよ〜く分るわ。どう考えて、どう扱われているかってことが・・・。」
「それと、そのおばさんが辞めさせられることって、関係があるんです?」
「そうねぇ、あると言えばあるんじゃないかしら。」
「・・・・・・。」
「あのチェーン店では、ある程度優秀なバイトは時給を上げて、他の競合店に引き抜かれないようにしているの。
遅刻とか、無断欠勤が無ければ、1年で時給は20円上がるの。
そして、2年が経てば、さらに30円上がるのよ。」
「それって、魅力じゃないです? 頑張れば、それだけ時給が上がっていくんですし・・・。」
「まぁね、働く側からすればそうとも言えるんだろうけれど、店、つまりは会社から見れば、その時給に見合わない人は、契約の更新をしたくなくなるのよね。」
「えっ! つまりは、長くいる人をクビにしたくなるってこと?」
「そ、そう、そのとおり。で、そのおばさんも、来月から3年目に入る予定だったのよ。」
千佳は、まるで自分がその当事者になったような口ぶりで言う。
(つづく)