第6章 明日へのレシピ(その32)
何より、読みかけの劇画をすべて読み尽したかった。
だが、問題もあった。
やはり、金の面だった。
既に、入店してから5時間近くになっていた。
『1時間500円』と表の看板にはあったが、最初から「○時間いる」と言えば、その分は割り引いてくれるシステムだった。
哲司は、その最終バスの時間を考えて3時間を指定した。
すると、1100円だと言われた。
1500円を覚悟していた哲司は「ラッキー」と喜んだ。
ただ、「時間は自己管理です。その時間を過ぎれば延長料金が掛かります」と注意をされた。
既に、4時間と40分ぐらい。
つまりは、1時間40分の延長だ。
哲司は、カウンターのお兄さんのところへと行く。
「今、出れば、延長料金は幾らになります?」
カウンターの男性は、哲司が持っていった伝票で時間を確認してから答えてくる。
「延長は、最初の1時間が500円。後は1時間300円。だから、800円の追加ですね。」
「じゃあ、このまま朝までいたら?」
「う〜ん・・・。君は歳幾つ?」
「17歳。」
「だ、だったら・・・、10時になったら出て貰うことになる。最近、うるさくってね。」
「えっ?」
「18歳未満は、夜10時までとなってるんでね。」
「・・・・・・。」
「で、でもね、君は制服着てる訳でもないし・・・。」
男性は、意味ありげな顔をする。
「ああ・・・、僕が18歳だと言えば良いってこと?」
「・・・・・・。」
男性は答えてこない。手元の伝票を整理する仕草をするだけだ。
「僕は18歳です。」
「ああ、そうでしたか。でしたら、そのままの料金体系です。
つまり、後は1時間までごとに300円が追加となるだけで・・・。」
哲司は頭で計算をする。
数学は苦手でも、こうした金の計算だけは暗算できる。
朝の6時ぐらいまでいても8時間。
つまりは、300円×8時間で2400円。
既に確定している800円を加えても、3200円。
痛いには違いないが、あの劇画が読み切れるという価値と比べたら安いものだ。
全10巻を買えば、その3倍はする。
で、結局は、そのままその漫画喫茶に朝まで居座った。
(つづく)