第6章 明日へのレシピ(その30)
「私のために・・・、すみません・・・。」
「良いのよ。でも、どうしようか・・・。」
残された千佳とミチルは、ふたり揃って哲司が座っている長椅子にやってくる。
哲司は黙って息を殺すようにしていた。
出来れば、その辺に転がっている石にでもなりたい気分だった。
哲司の近くに千佳が座る。
しかも、哲司に向かって小さな会釈を見せてだ。
とても、先ほどの女の子達と同じグループだとは思えない。
千佳も先ほどの女の子達同様に、大きなバッグを提げていた。
それでも、彼女は、それを足元に置いた。
先ほどの子のように長椅子の上に置くことはしなかった。
「ミチルも座ったら?」
立ったままでいる女の子にそう声を掛ける。
「今だったら、まだ間に合います。千佳さん、追いかけて行ってください。」
「そ、そんな・・・。じゃあ、ミチルはどうするの?」
「私は、自分で何とかしますから・・・。」
「そんなこと言ったって・・・。」
「ねっ、そうしてください。私のために、千佳さんがシカトされても・・・。」
「良いのよ。そうなったらそうなったで・・・。」
「で、でも・・・。」
「でも、も、何も無いわ。私が面倒を見るって言ったんだから・・・。」
(やっぱり、この子は、“人は良い”んだ。)
哲司は、その会話を聞いてそう思った。
先ほどのグループでは、この千佳のことを「馬鹿」だと言っていたが、こうした面での馬鹿ならば、素敵な馬鹿だと思う。
ほんと、応援してやりたくなるくらいだ。
「どういう関係のお友達なんです?」
ようやくミチルが椅子に座ったようだった。
同じ長椅子に座っていた哲司の尻が少し浮くような感じになる。
「そうねぇ・・・、強いて言えば、同宿の仲間ってとこかな?」
「ドウシュク?」
「あの真理奈って子のアパートに、皆、泊めて貰ってるんだ。
もち、タダじゃあない。ワンコイン、つまり500円は取られるんだけれど・・・。
今はあの子だけだから、自前で部屋を確保できてるのは・・・。」
「だ、だったら・・・。千佳さん、今夜は?」
「ミチルと一緒だよ。でも、ふたりいれば、何とかできる。」
「な、何とかって?」
「カラオケBOXって泊まったことある?」
「いいえ・・・。」
「ネットカフェや漫画喫茶は?」
「いいえ、全然・・・。」
(つづく)