第6章 明日へのレシピ(その25)
哲司は、もう駅ビルに戻る気がなくなっていた。
(どうせ、本屋で、立ち読みするぐらいなんだし・・・。)
かと言って、どこかへと動く気持すら沸いてこない。
と、その哲司の真横に、いきなり何かが落ちてきた。
そう、「どさっ!」っていう感じでだ。
慌てて飛び退く。
一体何が落ちてきたのか分らなかったからだ。
「ああ・・・、スンマセン!」
振り向くと、若い女の子の顔があった。
20歳前後だろう。哲司とほぼ同世代だ。
長椅子の上を見ると、相当に大きなバッグが乗っかっていた。
どうやら、この子がそのバッグを置いたようだった。
だとすれば、相当に乱暴な置き方だ。
(もう少し、静かに置けんもんか!)
哲司はその子を睨むようにして、また長椅子に腰を下す。
これを機に哲司が本来乗るべきバス停まで移動しても良かったのだが、そうすれば、この子にこの場を追い出されたような格好になると思った。
男として、そうは思われたくなかった。
「ねえねえ、それでさ、さっきの話しなんだけど・・・。」
女の子がそう言葉を続ける。
どうやら、その言葉の先には連れがいるようだった。
哲司に睨まれたことなど、何とも思っていないらしい。
哲司の腰をその大きなバッグが押してくる。
バッグがひとりで動く筈はないから、その横に座った女の子が押してきたに違いない。
どうやら、連れが同じ長椅子に座れるようにと、そのスペースを確保しにかかったようだ。
どんなにか太った人が座るのだろうとその方向を見ると、何とも華奢な女の子だった。
(ああ・・・、そういうことか・・・。)
哲司は、その華奢な女の子の動きを見て、押された意味が分った。
その子も、これまたかなり大きなバッグを提げていたのだ。
どうやら、この女の子達は、自分も座るけれど、バッグも座らせるつもりのようだ。
本来、このバス停に設置された長椅子は、普通の大人が4人腰掛けられる。
子供や、小さくなった老人であれば、5人は楽に座れる筈。
なのに、今は、哲司と女の子ふたり。
それでいて、哲司の尻が半分椅子の外へと押し出されるような有様だ。
「バッグ、下に置いたら?」
哲司がそう言った。それが常識だろうと思ってのことだ。
振り向いた女の子の顔が引きつっていた。
(どうして、あんたなんかに言われるのよ!)
そんな顔をしている。
(つづく)