第6章 明日へのレシピ(その16)
「リハビリとしてのバイトか・・・。」
哲司も、現在の自分に高木の言葉を重ねている。
丁度、年齢も同じぐらいだったのだろう。
なるほど、そういう言い方もある、と思う。
「ええ、オヤジに、“いつまで、そうしてメソメソしてるんだ。女の腐ったみたいに・・・”なんて言われましてね。」
「そ、それは酷い・・・。」
「まぁ、オヤジからすれば、無理をして大学まで出してやったのに・・・という気持があったんだろうと思いますよ。
オヤジは中卒でしたから、やはり学歴に対するコンプレックスのようなものがあったんだと・・・。
ですから、僕が大学に合格したときは、まるで自分が天下を取ったような喜びようでした。
まぁ、それなのに・・・。そうした歯がゆさがあったんでしょうね。
何をしてるんだ! って。」
「・・・・・・。」
哲司は、高木が話す父親像を自分の父親に重ねている。
立場は少し違うが、父親としての焦りのようなもどかしさが共通しているようにも思えてくる。
哲司の場合は、決して自らが進んで選んだものではなかったが、何とか工業高校に進学をさせてもらった。
当時は、他に行くところが無かったから、渋々そこへ入学をした。
それでも、この高木のように、勉強に勤しもうとする意欲は沸いて来なかった。
その高校の伝手で、何とか家電量販店に就職はできた。
これも、自ら、そこに勤めたいと思ってのことではなかった。
学校が、あそこなら何とかしてやると言って、押し込んでくれた結果だった。
それなのに、それこそ、それなのに・・・である。
哲司は、その家電量販店を、今度は自分の意思で辞めてしまう。
特にそうしなければいけない理由は無かった。
ただ、嫌になっただけだった。
それを知った父親は、多分、今聞かされた高木の父親と同じような心境だったのだろうな。
何か、そんな気がしてくる。
「そんな雰囲気でしたから、僕は、食事も両親と一緒には食べなくなってました。
オヤジの顔を見たくなかったんですね。
そりゃあ、毎度毎度小言を言うわけじゃないですけれど、やはり、僕の方にわだかまりがあったんでしょうね。
そのうちに、部屋からも出なくなって・・・。
まさに、完璧な“引きこもり”でした。」
高木は、その最後の言葉に少し力を入れる。
いや、聞いている哲司がそう感じただけかも知れなかった。
(つづく)