第1章 携帯で見つけたバイト(その33)
哲司は自分の持ち場に戻って作業を続ける。
次は、資源ゴミを入れる作業だ。
作業そのものは経験があるから苦労は無い。
頭を使う必要も殆ど無い。
だから、思考だけが自由に飛び回る。
「それにしても、あの及川とか言う現場責任者。さすがに偉そうにしているだけのことはあって、あの警報装置を易とも簡単に外してたな。
やはり、過去にはあのような装置が付いていたところの引越しなどもやったことがあるのだろうか?
それとも、俺のように、どこかであの手合いの機器を触った事があるのか。
いずれか、なのだろう。」
哲司はあの装置を一目見ただけで、その監視・警報機能を解除したうえで取り外した及川のことをそのように見ていた。
家電量販店にいたときの先輩だった大黒も、こうした機器にはメチャ強かった。
どこでどのようにしてそうした知識を得るのかは教えてくれなかったが、つい数日前に発売された最新鋭機器のことでも、細かな機能まで知り尽くしていた。
まるで、自分がその開発に携わっていたかのごとくに解説をしてくれる。
それから、その大黒の凄いところは、添付されてきた取扱説明書を読みもしないでそうした装置の中を開けてそのメカニックをあっという間に理解してしまう事だった。
無論、販売用の新品を分解するのだが、一定の解析が終わると、それを未開封だと信じ込ませるぐらいに完璧に復元してしまうのだから、驚いてしまう。
「どうして、開けたりするんですか?」
と哲司が聞いたことがある。
「何を言ってるんだ、中の構造やメカニックを知らないで、どうして修理が出来る?
そうだろう?
昔はな、新製品が出ればメーカーの技術者が見本としての本体機器と詳細な図面を携えて、我々の所へも足を運んだものだ。
壊れたら修理して使う。それが当たり前だったんだから、当然に修理をする技術者には中身をしっかりと説明しておく必要があったもんだ。
俺のオヤジの時代はな。
それがどうだ。
今は、ノウハウがどうだとか、特許技術が入っているからなどとほざいて、簡単な図面程度しかくれん。
ましてや中を分解して見られる見本のような機器はまったく無い。
壊れたら、メーカーへ送れというんだな。
それで、仕事が務まるか?」
大黒の言う事には、それなりの説得力があった。
だからこそ、彼がやっていることを上司に報告したりはしなかった哲司である。
それほどまでに、こうした電気機器類というのは技術者にとってもなかなか理解しにくいものだった。
とりわけ、最近の電子機器には多くの半導体が使われているから、その中身はまさにブラックボックス化しているのだ。
それなのに、多少型式は古いもののようだが、あの警報装置を一目で見抜いた及川は、それだけで、もはや一介の引越し屋ではないと思える。
(つづく)




