第5章 舞い降りたエンジェル(その82)
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電車がホームに滑り込む。そして、止まった。
扉が開いて、降りる客が次々とホームへと押し出される。
哲司も、その流れに乗るかのように赤ん坊を抱いたままでホームに出る。
そして、後ろから降りて来る筈の女性を待つために、扉の横へと寄って道を空ける。
「忘れ物は無いですか?」
哲司は降りてきた女性にそう尋ねる。
「はい、大丈夫です。有難うございます。」
女性はそう言って、手にしていた荷物をホームの上に降ろした。
「じゃあ、ここで・・・。」
女性が赤ん坊に向かって両手を差し出す。こっちにおいで、という意味なのだろう。
だが、それを見た赤ん坊の態度に哲司さえも目を疑った。
赤ん坊は、その母親が差し伸べた手に背中を向けたのだ。
そして、哲司の肩のところに顔を伏せてくる。
「あらら・・・、困りましたねぇ。」
女性は、本当に困ったような顔をする。
「薫、そんな我侭を言っちゃ駄目でしょう。
さ、巽さん、その子をこちらへ。」
女性は赤ん坊を叱った後、哲司にこちらに呉れるように催促をする。
さすがに哲司も時間が気にはなった。
この駅での停車時間は2分だとアナウンスされていたからだ。
哲司は意を決して、赤ん坊の両脇に手を入れて抱き上げる。
そして、その身体を両腕を伸ばすことで女性の胸へと押しやるようにした。
(な、なんでよ!)
赤ん坊の目が、哲司に向かってそう言っているように思える。
「じゃあ、また・・・。」
哲司は、もうそう言うだけで精一杯だった。
女性に軽く会釈だけをして、電車の乗降口へ駆け込むようにして乗り込んだ。
そして、振り返る。
ホームには、女性に抱かれた赤ん坊の如何にも不安そうな顔があった。
女性は、そんな赤ん坊を抱いたままで、深く一礼をしてくる。
哲司もそれに習う。
そして、電車の自動扉が、ゆっくりとだが確実に閉じられる。
女性が赤ん坊の手を取って、“バイバイ”というように小さく振らせている。
哲司も、その赤ん坊の視線に向かって、顔の前で手を振った。
やがて電車が動き始める。
(つづく)