第5章 舞い降りたエンジェル(その74)
○昨日、お若い方、そうですね、丁度この作品の主人公である哲司と同年代の方からのコメントを頂戴いたしました。
正直、驚いています。
私は、来年還暦を迎える団塊オヤジです。
まさか、そのようなお若い方にお読みいただいている
とは夢にも思っておりませんでした。
嬉しいやら、恥ずかしいやらです。
でも、気合は入りましたね。(苦笑)
その気合が空回りしないように頑張りたいと思います。
「いえ、そ、そんなことは・・・。」
哲司は照れる思いだ。
『ほんとは優しい子なんですが…』。
子供の頃、よく喧嘩をして、相手の子に怪我を負わせることがあった。
その相手の家に一緒に謝りに行ってくれた母親の常套句だった。
もちろん哲司は自分が悪いことをしているという自覚はないから、謝りに行くのは嫌だった。「どうして、俺が謝らねばならないんだ、喧嘩両成敗って言うんだろ?」という思いが常にあった。
身体はさほど大きくは無かったが、血の気だけは多かった。
すぐに「カッ!となる」性格だった。
口よりも先に手が出た。
俗に言う「キレやすい少年」だった。
少なくとも、『やさしい少年』だとは自分でも思わなかった。
粗野で反抗的。自分本位で協調性がない。
学校の評価は、概ねそんなものだった。
何度もそうしたものを見ているうちに、「俺って、こうなんだ」と思い込んだような気がしないでもない。
さりとて、それを覆そうと努力をしたつもりもない。
そして、いつの間にか、今日という日がやってきていた。
「だからなのでしょうね。きっと、あのお婆さんも、巽さんの横に座りたかったんだと思いますよ。」
「そ、そうでしょうか? 単に、その席が空いていると勘違いをしただけじゃないかって思いますけれど・・・。」
「いえ、人間、年をとると子供に戻っていくって言うでしょう? この子と同じように、自分の直感だけを信じるようになるんだと。
その直感が、“ああ、この人!”って思わせるんですよ。
そんなオーラが、巽さんにはあるんです。
それって、ほんとに素敵なことなんですよ。
そして、大切なことなんです。」
「・・・・・・・。」
「迎えに来られていた息子さんの様子を見ても、あのお婆さん、きっと周囲に優しく、そして温かくされているんだろうと思いますよ。
だから、お顔もとても柔和だったでしょう?
そう、まるで天使みたいに屈託の無い笑顔。
私、ホームで息子さんに抱かれてニコニコされていたあの笑顔がとても印象的に思えましたもの。」
「・・・・・・・・。」
「ですからね、同じように、その巽さんの優しいオーラに惹かれてくれたこの子が、いつまでもあのお婆さんのような柔和な笑顔でいてくれたらなぁ、なんて思っちゃいました。
親バカですよねぇ。人生、そんなに甘くは無いって分っちゃいるんですけれど・・・。」
(つづく)