表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/958

第5章 舞い降りたエンジェル(その67)

「確かに・・・。」

哲司も同じ気持がある。

出来れば、もっとゆっくり時間が流れて欲しいと思う。


とは言っても、そんなにこの電車にも乗らないのだから、その「いつもより」という比較は当てはまらない。

ただ、哲司がこの電車に乗るのは実家に戻るときぐらいだから、同行者もいなければ話す相手もいない。

ひたすら窓の外を眺めるか、さもなくば寝ているかのどちらかだった。

決して「早く着け」とも思ってはいなかったが、さりとてそうした時間を楽しめる旅でもなかった。


目的からすれば、今回の帰省も以前と何ら変わらない。

自分から積極的に動いたものではなく、親からの「たまには帰って来い」との度重なる要請に応えることにしたものだ。

それこそ、楽しい筈もなかった。

どちらかと言えば、気の重たい旅だった。



車内アナウンスによると、次の駅では約5分程度停まるようだ。

後から来る特急を待避するらしい。

つまりは、後から出た特急に追い抜かれることになる。


(いっそのこと、何本かの特急をここでやり過ごしたいぐらいだ。)

哲司は、そのアナウンスを聞いてそう思う。


「私、ちょっとホームに出てきますね。電話を掛けたいもので・・・。」

女性がハンドバックから携帯電話を取り出して言ってくる。


「あっ、はい・・・。」

哲司はそう言ったものの、何となくその電話を受ける相手に嫉妬する。

どこの誰なのかは知らないのにだ。


「その間、この子、お願いできます?」

「ええ、もちろんです。」

哲司は喜んでそう答える。



そう言っている間に、電車のスピードが次第に落ちてくる。

どうやら駅の構内に入ってきたようだった。


車内では、次の駅で降りる乗客達が通路へと並びはじめる。


「では、ちょっと行ってきます。」

女性はそう言って、哲司の前をすり抜けるようにして通路の列に並ぶ。

そして、後続の乗客たちに押されるようにして下車口の方へと進んでいく。


電車がホームに停まった。そして、扉が開いたのだろう。

通路に溜まるように並んでいた乗客が次々と押し出されていく。

まるで歯磨きのチューブから中身が押し出されるのと同じだ。

そして、車内が一旦は静かになる。



(つづく)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ