第1章 携帯で見つけたバイト(その28)
何と、山田の担当エリアはその大部分が既に片付いていた。
ゴミを何かで寄せ集めた跡だけが、埃で白くなっていた床にくっきりと残されているだけで、その代わりに、頭陀袋が8つも無造作に転がされていた。
その全てが口のところで縛ってある。
いつでも持ち出せるようになっている。
「くわぁ〜、こいつ早ぇな。」
一瞬見たときには、哲司は思わず舌を巻いた。
同時刻に作業を開始している。
物量もほぼ同じ筈だった。
哲司が自分で境界線を引いて担当するエリアを分けたのだから、それは間違いがない。
それなのに、自分の進捗率が6割程度で、山田のそれはほぼ8割だ。
いや、それを越えて9割のところまで来ているかもしれない。
「なぜだ、どうしてだ?」
哲司は納得できない。
少なくとも、自分にはそれなりの経験がある。
そう思っていた。
だから、山田に負けるわけがないと多寡を括っていたのは事実だ。
仮に、最初に「経験はあるか?」と訊かれたときに、この山田が意図的に嘘をついたにせよ、これほどの差が出るとは想像だにしていなかった。
哲司は、呆気に取られたというより、まるでマジックを見せられた時のように首を傾げている。
「どこかにタネが仕込まれているのではないか」という思いなのだ。
しばらく自分の手を止めて、山田の作業を眺めている。
「・・・・・おう、それでか。」
哲司はようやくその原因が分った。
よく見ていると、山田は手当たり次第にゴミを袋に入れているのだ。
まったく選別などはしていない。
つまり、ゴミの分別は度返ししているのだった。
「うふふふ・・・・・・・。これは、面白いことになったぞ。」
哲司は不敵な笑いが込みあがってくるのを抑えられなかった。
このままでは「やり直し」をさせられる筈だ。
こうしたゴミは、このビルの所有者かあるいはこの引越し業者が提携している廃棄物処理業者が引き取る事になっていると思うのだが、何もかもがごっちゃになったものは受け取りを拒否する筈である。
つまり、持って行ってはくれないのだ。
そうなれば、香川の立場はないだろう。
ましてや、先ほどの一件がある。
香川主任は、きっと腹に据えかねているものがある筈だ。
「まあ、仕方がないな」では済まさないだろう。
「こりゃあ、見ものだぞ。」
哲司は、この後の対応が目に浮かぶ。
(つづく)