第5章 舞い降りたエンジェル(その46)
「こ、こう、でしょうか?」
哲司は、見よう見まねで赤ん坊の背中を叩いてみる。
それでも、どうしても“恐る恐る”になってしまう。
「うふっ! そんなに優しくしてたら、あまり意味がありませんから、もう少し強く。」
「だ、大丈夫でしょうかねぇ・・・。」
「はい、大丈夫ですよ、この子も慣れてますから。やってみてくださいな。」
「これぐらいでしょうか?」
哲司も、今度はもう少し強く叩いてみる。
先ほど女性がして見せた時に、赤ん坊の身体を通して感じた力加減を何とか思い出しながらである。
「そうそう、それぐらいで。もう少し強くっても構いませんよ。」
女性は哲司が叩く音に聞き耳を立てるようにして言う。
「で、どれぐらい叩けば?」
「“おくび”が出るまでですよ。」
「それって、しばらく掛かります?」
「う〜ん、そうですねぇ。その都度違いますけれど、そんなに長くは掛かりませんよ。早ければ10秒。長くっても1分ほどで・・・。」
「そ、そんなに早くですか・・・。」
「それって、出れば分るものですか?」
「はい、巽さんもきっとお分りになると思います。この子の場合、結構派手ですから・・・。」
女性はそう言って笑う。
その時だった。そう、トントントンを3回繰り返したぐらいのときだった。
哲司の耳元で「ケホッ!」という可愛い音が聞こえた。
そのあと、「ウィ〜」という声もする。
「ん?」
「お分かりになりました? 今、出たでしょう?」
「そ、そう言えば、そんな音が聞こえたような・・・。」
「本人も、この“おくび”を出すとすっきりするみたいで・・・。ですから、出た後に鼻歌のような声を出したでしょう?」
「ああ・・・、あれって、鼻歌なんですか?」
「本人は、どうやらそのつもりのようですよ。ご機嫌なときに出す声ですから・・・。」
「そ、そうだったんですか・・・。」
哲司の身体から緊張感が抜けていく。
「もう、横に抱かれても大丈夫ですよ。“おくび”さえ出れば、ミルクが胃の中で落ち着きますから。」
「ふう〜・・・。」
哲司は、両足を踏ん張るようにして抱かれている赤ん坊の様子を探っている。
このまま縦抱きにしておくか、あるいは再度横抱きに戻すかを、その赤ん坊の状態に合わせて考えようと思う気持があったからだ。
「ウィ〜、バピュウ〜・・・。」
赤ん坊のご機嫌な鼻歌が哲司の耳を撫でてくる。
(つづく)