第5章 舞い降りたエンジェル(その33)
「そう。そうですねぇ・・・・。」
哲司は力なくそう答える。
分ってはいるつもりなのだが、改めて言われると、何とも優柔不断な自分がそこにいるような気がしてくる。
「それもあっての帰省ではないのですか?」
女性は哲司がはっきりとしないものだから、少し苛立ちを感じたようだ。
「う〜ん、・・・どうなんだろう?」
「その彼女のこと、ご両親はご存知なの?」
「いえ、何も言ってませんから・・・。第一、そんなことを言える立場ではないですし・・・。」
「そ、それは、どういうこと?立場って?」
哲司は、しまった! と思った。
だが、もう遅い。
「実は、今の僕は、そんな女の子とどうのこうのと言える状況じゃないんです。
学校も行ってないし、かといって仕事もしていないんです。」
「失礼な言い方ですけれど、俗に言うところのニートさんですか?」
「はい。情けないですけれど・・・。」
「で、でも、私にはとてもそのようには見えませんよ。ちゃんとした常識もお持ちだし、人への心配りもちゃんとされていますから・・・。
それにね・・・。」
「それに・・・?」
「先ほど仰ったじゃないですか、情けないけれど、って。
それって、そのように受け止めておられるのであれば、ニートさんではないと思いますよ。
たまたま、何かの事情や偶然が重なって、そうなっただけで・・・。
違いますか?」
「そう、思いたいですね・・・。」
「今からでも遅くはありませんよ。まだまだお若いのだし・・・。
やろうと思うお気持があれば、きっと大丈夫だと思いますよ。
是非、頑張ってくださいね。応援していますから。」
女性は、意識してか、明るくそう言ってくれた。
「そうですね、まだまだ・・・・ですよね。」
哲司は、自分への言葉として、そのように繰り返した。
「すみません。その珈琲、私にも注いで貰えません?」
話疲れたのか、女性は哲司にそう頼んだ。
「あっ!・・・はい。」
哲司は、ポットから珈琲をカップに注いだ。もちろん、中についていたカップにである。
それから、女性の前のテーブルを引張り出そうとしたが、赤ん坊を抱いているために、それが出て来ない。
「じゃあ、赤ちゃん、僕が抱いていますから・・・。」
哲司は、自分のテーブルにそのカップを置いてから、寝ている赤ん坊を受け取ろうと両手を差し出した。
(つづく)