表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
261/958

第5章 舞い降りたエンジェル(その29)

「私だったら・・・ですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

女性は考え込むようにして、哲司はその横顔をじっと見ているだけになる。



互いに沈黙する数分間が過ぎていく。



「ふぅ〜!・・・・・。」

言葉にならない溜息のようなものが女性の口をついて出る。


「やはり、そう簡単なことじゃないですよね。」

哲司は自分で訊いておきながら、それを撤回したくなる。

これ以上、女性に悩んでもらいたくないと思うようになる。



「私だったら・・・・、私がその女子高生だったら、同じように思うかもしれません。」

女性は抱いている赤ん坊を少し動かすようにして、そう言った。

その視線は、赤ん坊の顔に注がれている。


「そ、そうなのですか?」

哲司は、余りにも予想外の言葉に驚きを隠せない。


「確実にとは言えませんが・・・・、多分、その子と同じ気持になっているかもしれません。

それはどうしてか? と訊かれても答えようがないんですが、そんな気がします。」

女性は、そう言いつつ、その存在を確かめるように、抱いている赤ん坊を支える腕に力を込めている。


「では、その子が言っていることは、まるっきり常軌を逸したものではないと?」

「はい、少なくとも、当人にとっては、そうしたくなる要素は十分にあるものだと思います。」


「男の僕にはよく分からないのですが、誰の子か分らなくても、お腹の子はいとおしくなるものですか?」

「どうなのでしょう。個人差がありますから、一概にそうだとは言えないのでしょうが、少なくとも、女性の立場からすれば、誰が父親だとしても、自分の子供であることは動かしがたい事実なのですし・・・・。」

「な、なるほど・・・・。」


「ですから、最近は、シングルマザー、つまり未婚のままで子供を育てる女性も増えてきましたし・・・。

私も、同じ、子供を持つ母親の立場として考えれば、その相手が誰であろうが、受胎した女性の意思が尊重されて当然のような気もします。

ですから、その子の気持もある程度は分るような気がするんです。」


「な、なるほどねぇ。・・・・・聞かせてもらって良かったです。本当に。」

哲司は本心からそう思って頭を下げた。



「でも、そうした女性の立場が守られる社会では、必ずしもありませんからね。

先ほど言ったシングルマザーでも、多くの女性は、生活そのものに苦しんでいるのが実態のようです。

ですから、その子の気持は分るけれど・・・・、果たして、それがその子と生まれてくる子供にとって、より良い判断であるかは別の問題なのだろうと思います。」



(つづく)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ