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第1章 携帯で見つけたバイト(その26)

香川が飛びのくように後ろに下がった。

異様なものを見る目つきになっている。


「そりゃあ、知ってますよ。

だけど、どうして僕がそれを言わなきゃいけないんです?

バイトとして雇われているからですか?」

山田は、さすがに今度だけは作業の手を止めた。

しゃがんだままだが、顔は香川に向けられている。

「どうして、そこまで言われなきゃいけないのか?」とでも言いたげだ。


「・・・・知ってるんなら、教えてくれてもいいだろう?」

香川の口調にもやや引く感じがある。


「どうして?」

山田はその姿勢が苦しくなってきたのか、片膝だけを立てる。


「どうしてって・・・・・」

香川は悔しそうな顔をしながらも、その後の言葉を継ぎ足せない。


「僕は、引越し作業の補助要員として雇われたんです。

ですから、その作業だったら言われたとおりにやりますし、現に、今やってます。

でも、他の事は僕には関係がないことです。

そうでしょう?」

どうだ、これで参ったか?

山田の顔が少し笑ったように見えた。


「だけど、仕事って、そんなもんじゃないだろ。

特に、我々のような引越業務ってのはグループとして動いている。

互いに協力してやらないと、うまく行かないものなんだ。

個人個人の力を如何に有効に組み合わせて総合力として発揮させていくかが問われるもんだ。」

香川は持論をぶつ。

恐らくは、ミーティングなどで何度も口にしてきたものだろう。

組織の一員としては、当然のことのように聞こえる。


「それは、そっちの勝手な言い分。

時給幾らで雇われたバイトには通用しません。

そんなことを思ってたら、バイトなんかやってられない。

だから、ウザイって言うんだ!」

山田は、また少しだけ声を大きくした。

これ以上言うのであれば、キレルよ、という意味である。



香川は首を傾げて溜息を漏らす。

こんなことで時間を浪費したくは無いと思っているのか、ちらりと腕時計に目をやった。


哲司は、先ほどから、そうしたやり取りをじっと見守っていた。

することは沢山あるのだが、予想を超えた展開となっていたから、1人の傍観者の立場で固唾を呑んで見ていた。


「この勝負、山田の勝ちだな。」

山田が元の作業を再びやり始めたことで、哲司はそう思った。


胡散臭い奴だとの印象は消えていないが、俗に言う「すぐにキレル」タイプの男だとの認識である。



(つづく)





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