第5章 舞い降りたエンジェル(その25)
「ど、どうしたら?」
哲司はうろたえる。
赤ん坊がオシメを濡らすことは知ってはいる。
だが、それ以上のことは分からない。
オシメを取り替えた経験もなければ、オシメがどのような仕組みで赤ん坊に着せられているのかさえ知らないのだ。
「今から準備しますから、それまではそのまま抱いていてください。」
女性はそう言って、持っていた旅行鞄からオシメらしきものを取り出した。
そして、自分が席からたって、その空いた席の上でそれを広げる。
パッケージには「紙オムツ」と書かれていた。
「はい、じゃあ、こちらへ貰います。」
女性はそう言って、赤ん坊の両脇を持って抱き上げる。
それと伴に、哲司の胸から赤ん坊の感触がふっと消える。
しばらく抱いていたからだろう。
多少、両腕に痺れた感覚がある。
だが、不思議なものだ。
今は、そうした痺れが何ともいとおしく感じる。
女性は赤ん坊を先ほどまで自分が座っていた座席に寝かせる。
急に、抱かれていた感触から横にされたからか、赤ん坊は少し愚図った。
小さな手を目のところへと持っていく。
女性は慣れた手つきで赤ん坊がしていたオムツを外した。
そして、外したオムツを準備していたビニール袋へ手早く入れる。
次に、横に広げていた新しいオムツの上に赤ん坊のお尻を移動させる。
そして、これまた手馴れた動作で、その紙オムツを赤ん坊に装着する。
濡れて気持が悪かったのだろう。
それを取り替えてもらって、赤ん坊は気持良さそうにまた眠りについた。
「初めてですか?」
「えっ!何がです?」
「いえね、オシメを取り替えるのをじっとご覧になっていたようなので・・・。」
「あっ、はい。初めてです。」
「昔は布で出来たオシメが主流だったんですが、今では、こんなに楽なものがあるので・・・。」
「そのうち、ご結婚されて、お子さんができたら、巽さんもこうしたことおやりになるんでしょうねぇ。」
「ど、どうなのでしょう?でも、こうして見てても、大変だなぁと思いますね。」
「それこそ、慣れですから・・・。」
「今度は私が抱いていますわ。お手数をお掛けしてごめんなさい。」
女性はそう言って、その赤ん坊を抱いてから、自分の席に座りなおした。
哲司は、何か気に入った玩具を取り上げられた子供のような気持になる。
(つづく)