第1章 携帯で見つけたバイト(その25)
香川はようやく起き上がりかけた部下の身体を横から支えてやりながら、自身は上を見上げるような仕草を見せる。
天井に潜む何かを睨みつけるような眼をしている。
何とか立ち上がった森本に、その場から遠ざかるように促す。
「で、でも・・・・・・・」
投げ飛ばされた森本はそう言われることに抵抗があるようだ。
このまま黙って引き下がれない、と言わんばかりの顔をする。
「いいから・・・・。」
香川が言ったその一言に、森本は渋々その場から離れていく。
今頃になって痛みが起きてきたのか、両手で腰や背中をかばうようにさすっている。
遠巻きでことの推移を眺めていた他の社員達に支えられるようにして、こちらの視界から見えなくなった。
「なぁ、山田。
確かに、こちらの言い方も悪かったかも知れん。
だけどな、いきなり投げ飛ばすことはないだろう?
幸い、大事には至って無いからいいようなものだが、これで怪我でもされたらあとあと大変だぞ。
例えバイトの立場であっても、あそこまですればやはり暴力だと言われても仕方がない。警察沙汰になったら、お互いに困るだろ。な!」
香川は、山田から2歩ほどの距離を開けところで中腰になったままでそう言う。
何かの拍子に、今度は自分が投げられないようにと考えての間隔らしい。
「不可抗力です。今のは。」
山田は作業の手を止めることなく、また、香川の方を見ることもなく、元のぼそぼそとした口調で答える。
「それについては、水掛け論だな。今は、そんな暇も無い。」
香川が中腰を改めて、その場でまっすぐに立つ。
その時、山田の動きがほんの一瞬だが止まったように思えたのだが、すぐに何事も無かったように手が動き出す。
「ところでだ、さっきの話だが、・・・・あの装置のことだ。
警報を止められると言ってたよな。」
香川は、どうやらそれを教えてくれさえすれば、今の一件は不問にしてもいいと考えているようだ。
顔の表情とは不釣合いな柔らかな口調がそれを物語っている。
「知ってはいますけれど・・・・。」
山田は相変わらず舌の使い方を知らないような言葉で答える。
「だったら、教えてくれ。
どうすれば止められる?」
香川の身体が、再度、中腰の状態になる。
頭を下げているのではない、との無言の意思表示が織り交ざっているようにも感じられる。
「ウザイんだよな!」
山田が、ひときわ大きな声を出した。
(つづく)