第5章 舞い降りたエンジェル(その13)
「そんなに面白い顔でしょうか?」
哲司は苦笑するしかない。
「いえいえ、そういうことではなくて。
これぐらいの子って、まだ何が面白いという感覚はないようです。
ただ、自分にとって心地よい人や物は分るみたいで。
それでだと思いますよ。笑うのは。」
その女性はそのように解説をしてくれる。
それでも、こうした赤ん坊に触れたことのない哲司には、言われていることにも素直に頷けない。
「でも、パパさんがあやされても・・・とおっしゃいましたよね。」
「そ、そうなんですよ。
ほんと可愛がってくれるのですけれど、この子がにこりともしないので・・・。
パパの方が、最近は近づかなくなって・・・。」
「そ、それなのに・・・・、変ですねぇ。」
哲司は、自分がにっこれされる理由が分らない。
まあ、それでも、顔を見たとたんに泣かれるよりはマシだ。
そう思う他はない。
「抱いてみます?」
何を思ったか、女性がそう言ってくる。
「・・・・・でも、泣かれたら・・・。」
「大丈夫ですよ。こんなに笑うんですもの。」
「で、でも・・・・・。」
「怖いですか?」
「少しは。だって、こんな小さな子を抱いたことはありませんから。」
「だったら、是非一度。」
結局、哲司は断りきれなかった。
その赤ん坊を抱くことになる。
「じゃあ、いいですか?
頭を肩に乗せますからね。
ああ、そんなに力を入れないで。」
女性がそんなことを言いながら、その子を自分の手から哲司の胸に移し変える。
哲司は、いくら言われても、力が入るのは止められない。
万が一にも落としたら・・との恐怖感もある。
だが、言われたとおりに手を添えただけで、すんなりと収まった。
その赤ん坊の方も、抱かれ方を心得ているようで、体重をうまく哲司の胸にもたれるように仕向けてくる。
安定したところで、改めて「誰が抱いているの?」というように哲司の顔を見つめてくる。
そして、今度は、一転して、恥ずかしそうに顔を哲司の肩に伏せてくる。
「こ、こんな抱き方で良いのですか?」
哲司は、まるで時限爆弾でも抱かされたような言い方になる。
(つづく)