第5章 舞い降りたエンジェル(その8)
次の駅で一旦降りる。
これから、交差している別の線に乗り換えるのだ。
ここからは急行電車に乗る。
降りたホームから階段で上層階にある別のホームに移動する。
ホームに吊り下げられている電光掲示板を見上げて、次の電車の出発時刻を確認する。
10時10分に特急電車があるが、これには乗らない。
そんな贅沢はしない。
つぎの急行電車は・・・。
10時15分発だ。まだ10分ばかりの余裕がある。
だが、哲司はその時刻を確認した後、すぐにその急行電車の乗車位置に移動した。
そして、そこにスーパーのチラシを2枚重ね敷いて、その上に腰を下ろす。
特急電車は全席指定だから、席を確保することに焦らなくても済む。
だが、急行電車は全席自由席なのだ。
つまりは、早いもの勝ちなのだ。
だから、こうして乗車位置で乗り込む順番を確保する必要があった。
そのためのスーパーのチラシである。
哲司は新聞はとってはいない。そんな余裕もない。
だから、新聞紙もその新聞と共に入る折込チラシもあのアパートにはなかった。
だが、それでも、時たまだが、全戸にポスティングされる広告やチラシもある。
それを取っておいただけのことなのだ。
一度、アルバイトであのポスティングをやったことがあったが、体力と時間を食う割には時間給は安かった。
それに、天気の日はまだましだが、雨天のときには大変な苦労が伴う。
二度とやらないと心に決めていた。
「すみません。急行に乗るには、この位置でいいのでしょうか?」
ほけ〜っとしていた哲司に、突然の声が掛かった。
振り返って、そして、それから見上げる。
ホームに直接座っているのだから、当然のようにそうなる。
「はい、ここで。」
哲司は短くそれだけを答える。
答えておいてから、改めてその相手の顔を確認する。
若い女性だ。しかも、美人である。
哲司は、急いで立ち上がろうとする。
そして、先ほどの言葉に訂正を加える。
「ここからでいいんですよ。僕もそれを待っているんです。」
言いながら立ち上がる。
そして、ズボンの尻を軽く叩く。
よく見ると、その女性は赤ん坊を抱いていた。
(つづく)